ショートショート ホットケーキメイクアップ!
「よーし、今日は山に登るかー」
わたしのお母さんは、いつも突然だ。
窓から外を眺めていたかと思うと、ニヤニヤしながら言った。
「なんか呼ばれてる気がする。今日は山に行く!」
家の中をバタバタと走りながら、リュックや水筒やタオルなどを準備し始めた。
わたしは、ちょっと気分じゃなかったけど、リュックにお菓子を入れると、遠足みたいで楽しくなってきた。
「お母さーん、何がいるの?チョコレートは溶けちゃうよね?アメ?おにぎりは?」
「食べ物は、途中のコンビニで買うよ!好きなの買っていいよ」
「シール帳も持っていっていい?」
「いいわけないじゃん。それは、荷物になるよ」
シール帳はダメなのか。山にお店はないのかな。お母さんに聞きたいけど、スマホで何か調べている。こういう時に何か言うと、「うるさい」と言われる。
「娘ちゃん、この山なんだよね。なんか気になる山。2時間くらいだけど、大丈夫?途中でシールも買うよ。だから、やっぱりシール帳持っていっていいよ」
やったー。やっぱりお母さんは分かっている。
ぎゅーっと抱きつく。
「ちょっと忙しいから、後で」
頭をポンポンとした後、お母さんはまたバタバタと準備を始めた。
*
「お母さん、まだなの?どこまで登るの?」
「んー。どこまで登ったらいいのかなあ」
「えー。分かってないの?」
「分かってはいる。知らないだけ」
でた。
お母さんは、ときどき、意味の分からないことを言う。
「ね、娘ちゃん。なんかいい匂いしない?」
クンクンと辺りの匂いを嗅ぐと、少しだけ甘い匂いがする。
「するね。なんか、美味しそうな匂い」
ちょっとだけ、元気が出てきた。
でも、なんでこんな所で甘い匂いなんかするの?
周りは、木や草や花ばかり…。
「あれ?お母さん、見て。虹色のきのこがあるよ!」
「きたー!!」
お母さんは、慌ててきのこに近寄る。
「お母さん、このきのこの夢を見たのよ。
やばくない?本当にあった」
嬉しそうに、きのこを眺めている。
「お母さん、あっち見て!たくさんきのこあるよ!」
少しひらけた場所に、虹色のきのこがたくさん生えている場所があった。
ふたりで走っていくと、さらにその先に、小さなお家があった。
「娘ちゃん、看板がある。お店かも。行ってみよう」
「えー、やだよ。なんか怖い」
「大丈夫だよ。ちょっと看板見てみる。
えーと、魔法のホットケーキカフェ?
娘ちゃん、ホットケーキだって!しかも、魔法だって!入るよー」
「お、お母さん!ちょっと待ってよー!」
あわてて、お母さんの後を追う。
お店の中は、とってもいい匂いがしている。
店の奥から、人が出てきた。
え?猫娘?
フードを被っていて、耳がついている。しっぽもある。
「いらっしゃいませ」
とっても可愛いお姉さんが、とっても可愛い声で、とっても可愛い笑顔で言ってくれた。
お母さんもニコニコしている。
「ふたりです。大丈夫ですか?」
「はい。カウンターにどうぞ」
お母さんと隣に並んで座る。
「今日は、お越しくださりありがとうございます。そろそろかなと思っていました。すぐにお作りしますね」
チラッとお母さんを見てみる。
ずっとニコニコしている。
「ねえ、予約とかしていたの?」
「ん?してないよ」
やっぱり、意味が分からない。
お姉さんは、お皿をわたしたちの前に並べた。
その隣にフォークを置いた。
お皿には、なにもない。
わたしが、お姉さんを見ると、
ふふふと笑いながら、両手を広げ
「ホットケーキメイクアップ」
と言った。
金色の光がキラキラと降ってきて、お皿の上にホットケーキが一枚ずつ重なり出した。
「えええーー!お母さん!お母さん!ど、どういうことなの?ホットケーキが出てきたよ!」
「うん。そうだよ。美味しそうだねぇ」
お母さんは、変わらずニコニコしながら眺めている。
なんで、ビックリしないの?
「はい、どうぞ。召し上がれ。
あ、メープルシロップかけてもいいですか?」
「はい、もちろん。お願いします」
また両手を広げると、透明のポットがふわふわと飛んできて、ホットケーキに何かをかけている。
「娘ちゃん、フォークをどうぞ。お腹すいたでしょ?モリモリ食べちゃおう!」
わたしは、フォークを持ったまま、固まってしまった。食べて大丈夫なの?
お腹痛くならないのかな?
お母さんは、フォークでひとくちサイズに切って、「あーむ」と言いながら食べた。
「おいしー!やっぱり、この味だよ!
懐かしくて、泣きそうになっちゃう」
懐かしい?
「お母さん、食べたことあるの?」
お母さんの、ヤバっという顔。
「ううん。初めてだよ。昔ながらのホットケーキってこと」
怪しい。
目を合わせない。
怪しいけど、もう我慢できない。
美味しそうな匂いと見た目と…。
「いただきまーす」
んー!おいしーーー!!
でも、思っていたのとちょっと違う。
「お母さん、このホットケーキ、いつも家で食べてるホットケーキと味が違うね」
「お、そこに気付きましたか!娘ちゃん、さすがですねー」
とっても美味しいのだけど、なんだかふわふわしてくるし、よく分からない。
何枚食べても、全然お腹いっぱいにならない。
バクバク食べていると、カウンターの端っこの、フォトフレームに気付いた。
よく見てみると、猫耳の小さな女の子が、両手を広げて写っている。女の子の前には、小さな小さなホットケーキ!
「これ、お姉さんですか?かわいい…。
お姉さん、昔から魔法が使えるのですか?
わたしも魔法、使えますか?」
「ふふっ。そうだね。
あなたが、どれだけ信じるかだよ」
そう言って、お姉さんはにっこり笑った。
使えるの?わたしも魔法が使えるの?
なんだか、ドキドキしてきた。
やってみたい。
お母さんとお姉さんが、おしゃべりをしている間に…。
両手を広げて、小声で言ってみる。
「ホットケーキメイクアップ!」
何にも出てこない。
「ホットケーキメイクアップ!」
やっぱり、何にも出てこない。
なんで?猫耳がないから?それとも、しっぽ?
*
10枚は食べたと思う。
それなのに、身体はふわふわしている気がする。
「よーし、帰るよー」
お母さんは、相変わらず急に動き出す。
「お母さん、またここに来れる?」
「うーん、どうかなあ。呼ばれた時は来るよ」
お店を出る前に、お姉さんに挨拶をする。
「ごちそうさまでした。また来てもいいですか?」
お姉さんは、ずっとニコニコしている。
「あ、娘ちゃん。手のひら見せて?」
お姉さんが、わたしの手を掴んで、手のひらを見る。
「わあ。見て?ここに魔法の欠片がついているよ」
よく手のひらをみて見ると、お母さんがまぶたに塗っているようなキラキラした金色の何かが付いている。
「これ、魔法の欠片なんですか?わたし、魔法使えるんですか?」
嬉しくなって、飛び跳ねる。
お姉さんは、手を優しく握ってくれた。
「また、来てね」
わたしは嬉しくて、手のひらを何度も何度もみた。
「やったー!ホットケーキメイクアップ!!」
*
「じゃ、いつかまた」
お母さんがあっさりとお姉さんに挨拶をして、扉を開けた。
外に出ると、目の前にミツバチが飛んできた。
「わっ、蜂だ!お母さん、気をつけて!」
蜂は、わたしたちの横を通り、お店の中に入っていった。
通り過ぎる時に、ふわっと甘い香りがした。
「お母さん、蜂が…」
お母さんの袖を引っ張り、後ろを振り返ると——
そこは、ただの原っぱだった。
ここに来るまでに見かけた草や花が咲いている。
あれ…?なんで?お店は?
わたしは、原っぱを歩き回った。
あちこち見たけど、虹色のきのこすら、見つけることができなかった。
さっきまで、あったのに…。
「娘ちゃん、暗くなる前に帰るよー!」
そう言いながら、わたしの手をぎゅっと握り、歩き出した。
お母さんは、お店がなくなっていることも、きのこがなくなっていることも、何にも言わない。
お母さんは、いつも何にも知らないのに、どんどん先に進んでいく。
だから、すぐ道にまようんだよ。
でも、今日はずーっと楽しそうだった。
こっそり手のひらを見てみる。
さっきまであった、金色のキラキラはなくなっていた。
ちょっとだけ、悲しくなった。
でも——
手のひらを、もう一度ぎゅっと握る。
お母さんは、
いつもと同じように、言った。
「さて、娘ちゃん、お家に帰りましょう」
今回、きのころさんの作品を読んで、
「魔法のホットケーキカフェ」が頭から離れなくなりました。
本作は、その世界観や設定をお借りして書いた二次創作です。
どこかに本当にあるのかもしれないし、
もしかしたら、ないのかもしれません。
でも——
もしも、呼ばれた人だけが行けるのだとしたら。
そんなことを考えながら、書きました。
ふふふ。
きのころさん、素敵な作品をありがとうございました!親子でハマっています。
娘に読んでもらったら、感想が返ってきました。
