おじの幸福食堂 第11話:免罪符のツナマヨと、受け継がれた「お袋の味」
冷蔵庫からよく冷えた缶ビールを取り出し、プシュッと小気味良い音を立てる。 今日のお供は、彼女が残していってくれたタッパーだ。 中身は「春雨サラダ」だった。
春雨サラダと言えば、ごま油と酢が効いた中華風を想像するのが一般的だろう。俺も最初はそう思っていた。 だが、蓋を開けて驚いた。彼女の春雨サラダは一味違う。なんと「竹輪入りツナマヨサラダ」だったのだ。
箸でたっぷりと掴み、一口食べる。 ……うまい。思わずビールに手が伸びる。
ツナとマヨネーズという、ともすれば重くなりがちな組み合わせ。しかし、春雨のあのツルツルとした軽やかな食感が、見事にそれを中和している。 「カロリーオフ」という最強の免罪符があるおかげで、ツナマヨのコクを心ゆくまで堪能できる。ヘルシーなのに、口の中には濃厚な幸せが広がっていく。美味しさと安心感が同居する、たまらないバランスだ。
そして何より驚くべきは、その状態の良さだ。 春雨サラダは時間が経つと水っぽくなったり、逆に水分を吸ってパサパサになったりしがちだ。しかし、このサラダにはそれがない。水っぽさは微塵もなく、パサつきもない。プロの技なのか、完璧な水分量でマヨネーズと具材が春雨に絡みついている。 そこに竹輪の食感と旨みが加われば、ビールのつまみとしてこれ以上の相棒はいない。
ふと、昔彼女が話してくれたことを思い出した。 彼女が小さい頃、「春雨サラダ」と言えばいつもこの味だったのだという。
つまりこれは、ただの思いつきのレシピじゃない。 彼女のルーツであり、彼女の記憶に刻まれた「お袋の味」なのだ。 子育てと仕事に追われる忙しい日々の中で、彼女がふと思い出し、一人暮らしの俺のためにわざわざ作ってくれた、大切な記憶のおすそ分け。
冷えたビールをもう一口飲み、サラダをゆっくりと噛みしめる。 ツナマヨの優しい甘みが、身体の奥へとじんわり染み込んでいく。
「……今、俺のお袋の味になったよ」
誰もいない部屋で、静かに呟いた。 彼女の幼い頃の記憶が、時を超えて、おじさんの胃袋と心を温めてくれている。 俺の食卓に、また一つ、かけがえのない大切な味が刻まれた夜だった。
