国境の村で出会った、カオバンの少数民族の暮らし
※2026年2月に訪問した際の記録です。
村を訪れて見えた、生活の文化
整えられていないからこそ、美しい。
中国との国境に近い村で、少数民族の暮らしを見てきました。
売るためではなく、生きるために続いてきた文化の話です。
今回は、少数民族が多く暮らすベトナム最北部のカオバン(Cao Bang)を訪れました。
カオバンは中国と国境を接する山岳地域で、27の民族グループが暮らしています。その約9割を少数民族が占める、ベトナムでも特に民族色の強い土地です。
主に多い民族は、タイ族、ヌン族、モン族、ザオ族(Dao)など。
都市部とは異なり、ここでは少数民族が生活の中心になっています。
今回の滞在では、ヌン族の伝統工芸が残る村と、黒タイ族の集落を実際に訪れました。
線香づくりで知られるPhia Thap Village、刃物・鍛冶文化が残るPac Rang Village、伝統的な手漉き紙文化が続くヌン族の集落、そして黒タイ族が暮らすストーンビレッジです。
いずれもテト(ベトナムの旧正月)の時期だったため、工房はほとんど動いていませんでした。
しかしその分、観光用ではない“生活そのままの風景”を見ることができました。
山の静かな村で、生活と文化がどのように続いているのかを共有したいと思います。
ヌン族とは?
ヌン族は、中国南部との歴史的な往来を持つ民族で、主に山間部や丘陵地帯に暮らしてきました。
農業を基盤としながら、線香づくり、刃物づくり、紙漉きなど、生活に必要な手仕事を受け継いできた民族です。

出典:https://dantocmiennui.baotintuc.vn/nation/dan-toc-nung/175.html
深い藍染めの綿布を基調とし、銀の装飾や控えめな刺繍、襟元や袖口に、わずかに別の色の布で縁取りがなされるのが一般的です。
特徴は、実用的であること。
装飾よりも機能。
観光よりも日常。
作るものはすべて、暮らしのためにあります。
その姿勢が、村を歩いていると自然と伝わってきます。
タイ族とは?
タイ族はカオバンで最も多い民族で、川や谷沿いに集落をつくり、稲作を中心に暮らしてきました。
タイ族には黒タイ族と白タイ族があり、今回は黒タイ族の村を訪問しました。

出典:https://www.tuyenquang.gov.vn/vi/post/the-way-to-promote-remote-village-the-impress-of-tay-ethnic-group-in-lam-binh?type=NEWS&id=147704
黒タイ族は濃い藍色の衣装を身につけますが、その色は装飾ではなく、何度も染めることで耐久性を高めた結果生まれたものです。
衣装もまた、生活から生まれた文化。
農業と結びついた祭りや歌、家族単位での共同生活が今も続いています。
線香の村|Phia Thap Village
Phia Thapは、ヌン族が多く暮らす線香づくりの村です。
線香が庭先に並び、村のいたる所に干し台が置かれている風景はとても印象的でした。テト期間で煙はあまり立っていませんでしたが、作業の痕跡がはっきりと残っています。
ベトナムでは、線香は日々の祈りと深く結びついています。
この村では、竹を削り、天然素材の粉を塗り、自然乾燥させるという工程を今も手作業で行っています。道具や材料の配置から、この文化が今も生活の中にあることが伝わってきました。


紙漉きの村|手触りの残る文化
ヌン族の集落では、伝統的な手漉き紙文化も残っています。
竹や樹皮を原料に、水と繊維をすくい上げて作る紙。
触れると少しざらっとしていて、でもどこかあたたかい。機械ではなく、人の手のリズムで生まれた質感です。
実際に紙漉きを体験させてもらいましたが、これがなかなか難しい。繊維の厚さが均等になるように、丁寧に揺らしながら作業を進めます。少しの差で厚みにムラが出る繊細な工程でした。

葉っぱや花びらが挟まれた紙も作られており、光にかざすと模様が浮かび上がります。私はその紙を購入しました。ライトと合わせると、とてもきれいに表情が変わります。

刃物の村|Pac Rang Village
Pac Rangは、刃物や農具づくりで知られる村です。
ここで作られてきたのは、装飾品ではなく生活のための道具。簡素な炉や、使い込まれた金属が並ぶ様子から、ヌン族の文化がいかに実用的であるかが伝わってきます。

村の入口には刃物を販売している小さなお店がありました。小学生くらいの
年齢に見える店員が、臆することなく英語で接客をしてくれます。その姿に、この土地の変化も感じました。

村ではOCOP商品も見かけました。OCOPとは “One Commune One Product(1村1品)” の略で、
地域特産品をブランド化するベトナムの制度です。
ただ、ここではまだ洗練されきっておらず、素朴なまま棚に並んでいる印象でした。

ストーンビレッジ|黒タイ族の暮らし
黒タイ族が暮らすストーンビレッジは、石造りの家が並ぶ小さな集落です。

主な生業は農業。訪れたご家族はお米ととうもろこしを生産していました。朝は早く、家族で農作業に向かいます。

私が訪れた時期は、二毛作の一期目と祭りの準備が重なり、とても忙しそうでした。それでも、観光用ではなく、生活そのものがそこにあります。
3月には豊作を願う祭りがあり、歌や楽器が村に響くそうです。
ホームステイも行っており、予約が入るとお母さんが準備から食事、接客までを一人で担当します。


家族の距離
夕食は家で育てたものが中心。ほぼ毎日同じ品目を食べているそうです。
子どもは将来ハノイへ行く予定だといいます。少し寂しそうな表情もありました。
伝統と子どもの自由、どちらを選ぶのか。
娘が結婚したら民族衣装を受け渡すそうですが、伝統を強制することはしません。「続いてほしいけれど、選ぶのは本人」。その自然な距離感が印象的でした。
子どもは14歳頃から家族とお酒に慣れる文化もあり、親戚や世帯同士で食料や材料を交換し、助け合いながら暮らしています。
なぜ、私たちは惹かれるのか
カオバンは便利な場所ではありません。
でも、ここには「生活の軸」があります。
売るためではなく、生きるために続いてきたもの。
線香も、紙も、刃物も、すべては暮らしの延長です。
整えられていないからこそ、本当の姿が見える。
発展は必要かもしれない。
でも、この静かな文化はそのままであってほしい。
国境の村で出会った暮らしは、そんなことを静かに考えさせてくれました。
Fav!について
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Writer
Yasu(Fav ! 編集部/ハノイ在住・ベトナム歴5年目)
