パリは、世界でいちばん値上げに成功した街である
こんにちは!SHUHEIです。
今日は朝のパリをランニングしながら、
「パリって、世界でいちばん値上げに成功した街だよな」
と思ったので、マーケティングエッセイを書きました!
それではどうぞ!
1. 朝のパリを走ると、俺まで高く見える
朝のパリを走った。
セーヌ川。
石畳。
橋。
ベージュのアパルトマン。
黒いバルコニー。
まだ開いていないカフェ。
腹が立つほど、絵になる。
こっちはただの時差ボケ日本人である。
内臓はまだ羽田の到着ロビーにある。
昨日スーパーで買った水の値段にも納得していない。
なのに、パリを走っているだけで、なぜか俺まで高く見える。
「朝からパリを走る俺」
文字にすると、かなり気持ち悪い。
自分で自分をミュートしたくなる。
でも実際、そういう顔になる。
パリの怖さはここだ。
人間の中身を変えずに、外側だけ高級に見せてくる。
マーケティングで一番強いのは、商品をよく見せることではない。
それを選んだ人間を、少し高く見せることだ。
パリは、それを街ごとやっている。
カフェで座っているだけの観光客を、人生を味わっている人に見せる。
ブランドの紙袋を持っているだけの人間を、審美眼のある人に見せる。
アパルトマンの窓を開けているだけの旅行者を、暮らしを選んでいる人に見せる。
実際は、ただ金を使っているだけである。
でもパリでは、それが「消費」に見えない。
「文化体験」に見える。
ここが本当にいやらしい。
パリは、金儲けをしているくせに、金儲けの顔をしない。
世界一スカした商業施設である。
2. ナポレオン3世は、街づくりではなく値上げをした
お前ら、パリの街並みを見てすぐ言うだろ。
「やっぱりヨーロッパは歴史がありますね」
「街全体がアートですね」
浅い。
浅すぎて、もはや足湯である。
今の「パリっぽいパリ」は、自然にできたものではない。
ナポレオン3世とオスマン男爵が、かなり強引に作り直した街である。
細い路地をぶち抜く。
大通りを通す。
建物の高さを揃える。
外壁の色を揃える。
街路樹を植える。
公園を置く。
下水道を整える。
都市の全身リブランディングである。
しかも美談だけではない。
古い街区は壊された。
貧しい住民は押し出された。
反乱を抑える政治的な意味もあった。
パリの美しさは、ピュアではない。
権力と資本と排除で磨かれた美しさである。
かなり性格の悪い美人だ。
でも人間は、性格のいい普通の人より、性格の悪い美人を見てしまう。
残念ながら、世界はそうできている。
ナポレオン3世がやったのは、単なる街づくりではない。
パリの客単価を上げたのである。
ただの道路を、散歩道にした。
ただの建物を、背景にした。
ただのカフェを、文化体験にした。
ただの買い物を、「パリで買った物語」にした。
これがマーケティングである。
値段を上げるな。
値上げできる理由を作れ。
ナポレオン3世は、都市でそれをやった。
3. パリは、街全体がハイブランドの紙袋である
パリでブランド品を買うと、なんとなく特別に感じる。
同じバッグでも、空港で買えば「買い物」。
パリ本店で買えば「物語」。
冷静に考えれば、同じ商品である。
でも人間は、そういう冷静さを持ち合わせていない。
持ち合わせていたら、広告代理店という仕事はもっと早く滅びている。
パリのすごさは、商品そのものではなく、背景で価値を盛ることだ。
街並みがある。
歴史がある。
石畳がある。
カフェがある。
映画がある。
文学がある。
「パリで買う」という言い訳がある。
つまり、パリは街全体がハイブランドの紙袋なのである。
紙袋って怖い。
中身より先に、持っている人を変える。
ただの買い物帰りの人間を、「何かいいものを買った人」に見せる。
パリも同じだ。
パリにいるだけで、人間が少し包装される。
俺のような時差ボケ会社員ですら、ベージュの外壁に包まれると、少しだけ文化的に見える。
完全に包装詐欺である。
でも、この包装詐欺こそブランドだ。
商品は中身だけで売れると思ってるやつがいる。
甘い。
砂糖水より甘い。
人間は、中身ではなく、中身を選んだ自分がどう見えるかに金を払っている。
パリは、それを街単位で理解している。
だから強い。
4. アジアは欲望を看板にする。パリは欲望を文化財にする
アジアの都市は面白い。
看板。
ネオン。
雑居ビル。
屋台。
電線。
室外機。
美容クリニック。
不動産投資。
激安マッサージ。
高級ブランドの横に謎の唐揚げ。
欲望がノーメイクで歩いている。
バンコクは「食う、買う、揉まれる、飲む」が全部路上にある。
香港は「土地がない」がそのまま上に伸びている。
ソウルは「もっと可愛く、もっと売れたい」が街から漏れている。
東京は「便利にしたい、でも統一する気はありません」を電線と自販機と看板で表現している。
これはこれで最高である。
人間が生きている感じがする。
でも、ブランドとしては正直すぎる。
アジアの都市は「買ってくれ!」と叫ぶ。
パリは「あなたが選ぶなら、どうぞ」という顔をする。
この差は大きい。
パリも本当は商売の街である。
ホテルは高い。
飯も高い。
カフェも高い。
美術館も並ばせる。
ブランド品も売る。
観光客からきっちり金を取る。
でも、それを商売とは見せない。
「文化です」
「美意識です」
「歴史です」
「暮らしです」
「アール・ド・ヴィーヴルです」
急にフランス語を出してくる。
ずるい。
日本語で「生活美学」と言うと通販カタログみたいになるのに、フランス語になると全員黙る。
つまりこうだ。
アジアは欲望を看板にする。
パリは欲望を文化財にする。
同じ金儲けでも、見せ方で単価が変わる。
これが都市ブランドの差である。
5. 「高級感」と書いた瞬間、だいたい高級じゃない
お前らの会社も言うだろ。
「高付加価値化したいです」
「高級感を出したいです」
「プレミアムラインを作りたいです」
そして何をするか。
パッケージを黒くする。
金色の線を入れる。
余白を増やす。
明朝体にする。
終わりである。
それは高付加価値化ではない。
仏壇化である。
高級感と書いた瞬間、だいたい高級じゃない。
本当に高いものは、自分で高いと言わない。
買う側が勝手に理由を見つける。
「職人技だから」
「歴史があるから」
「本場だから」
「一生ものだから」
「パリで買ったから」
素晴らしい。
全部、欲望の言い訳である。
マーケティングとは、消費者の欲望に、上品な言い訳を与える仕事だ。
欲しい。
でも、ただ欲しいとは言いたくない。
高い。
でも、無駄遣いとは思いたくない。
見栄。
でも、見栄とは認めたくない。
だからブランドが必要になる。
パリは、その言い訳を街ごと用意している。
「高い」と思わせたら失敗。
「高いけど、まあ分かる」と思わせたら勝ち。
パリは、この「まあ分かる」を都市単位で作っている。
6. まとめ:お前らも商品ではなく、値上げできる背景を作れ
パリは、美しい街である。
それは認める。
でも、ただ美しいだけではない。
パリは、人間の欲望を美しく見せる巨大な背景である。
高い飯を食う。
ブランド品を買う。
カフェに座る。
アパルトマンに泊まる。
朝、ランニングする。
冷静に見れば、全部ただの消費である。
でもパリでは、それが文化体験に見える。
ナポレオン3世とオスマンがやったのは、ただの都市整備ではない。
人間の見栄を、都市の形にしたのである。
「パリにいる自分は、少し上等だ」
そう世界中の人間に思わせる装置を作った。
そして150年以上経った今も、俺たちはその装置にまんまと乗せられている。
で、最後に部屋へ帰ると、アパルトマンの鍵が開かない。
15分くらいドアの前でガチャガチャやって、上の階の住人に注意される。
こちらは「パリに暮らす旅人」のつもりだったが、向こうから見れば、ただの不審な東洋人である。
普通なら星1である。
でも帰国すると、こうやってnoteに書いている。
おい、完敗じゃないか。
鍵の不具合までコンテンツに変える。
高い水まで旅情に変える。
冷たい店員まで思い出に変える。
これがブランドである。
商品を売るな。
背景を作れ。
説明するな。
勘違いさせろ。
売るな。
語らせろ。
パリは、世界でいちばん値上げに成功した街である。
そして俺たちは今日も、そのよくできた街並みの前で写真を撮り、カフェに座り、水の値段に小さく傷つきながら、「やっぱりパリはいいよな」と言ってしまう。
悔しいが、完敗である。
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