香川から芸術を巡る東京二日間①
世界最高峰のカップル競技と、羽生結弦の衣装が生まれるまで
2026年8月、香川から東京へ一泊二日の旅に出た。
今回の旅のテーマは「芸術」。
最初の目的地は、東京辰巳アイスアリーナ。三浦璃来・木原龍一組、“りくりゅう”がプロデュースしたアイスショー「DESTINY」を観るためだ。
そして、その後は東京タワーへ。羽生結弦さんの衣装と写真作品を展示する「Couture on Ice」を訪れた。
一見すると異なる二つの展示とショー。しかし実際に見てみると、そこには「最高の瞬間を生み出すための仕事」という共通点があった。
世界最高峰のカップル競技が集結した「DESTINY」
「DESTINY」は、ペアとアイスダンスだけで構成されたアイスショーだ。
フィギュアスケートのショーでは男女シングルの選手が中心になることも多い。その中で、カップル競技だけで一本のショーを作ること自体が珍しい。
しかも出演者が驚くほど豪華だった。

会場へ向かう公園を歩きながら、これから世界トップクラスのカップルを一度に見るのだと思うと、自然と期待が高まった。

ペアでは、りくりゅうが世界の頂点に立っていた時代に、世界の上位を争っていた実力のカップルたちが集結。
アイスダンスも、オリンピックのメダリストに加え、日本のレジェンド“かなだい”、そしてチームココが出演した。
これほどの顔ぶれを一度に見る機会は、そうあるものではない。

開演前、木原龍一選手が「競技と同じサイズのリンクで滑ることにこだわった」と話していた。
一般的なアイスショーでは、氷の上にも観客席を設置することがある。その場合、観客は選手を近くで見ることができる一方、リンクは競技会より小さくなる。
広いリンクを前提に滑っているペアやアイスダンスの選手たちは、スピードや助走、軌道などを調整する必要がある。
DESTINYでは、その逆だった。
観客との距離を縮めることより、選手たちが持っている力を十分に発揮できる環境を優先したのだ。
だからこそ、広いリンクいっぱいにスピードが伸び、リフトもステップも大きく見えた。
「カップル競技そのものの魅力を最大限に見せる」。
そんな明確な意志を感じるショーだった。
フィギュアスケートで「野球」を演じる
特に面白かったのが、「ペア対アイスダンス」という設定で野球の試合を再現したプログラムだ。
バッティングや守備、試合の流れまで、本当に野球をしているように見える。
後ろの席からは「あれはいらないから、一組ずつもっと長く滑ってほしい」という声も聞こえた。
確かに、お気に入りのカップルの演技をもっと長く見たい気持ちも分かる。
でも私は、あの演目こそ、この豪華なメンバーが集まったショーだから成立するものだと思った。
それぞれのカップルが、過去の代表的なプログラムの見どころを少しずつ披露する場面もあった。
いわば、レジェンドたちによる「名場面集」である。
しかも、本人たちが再現してくれる。
これは、とても贅沢だった。
さらに、氷の上で野球に見える動きを成立させるには、高いスケート技術だけでなく、演出力、タイミング、身体表現も必要になる。
単に滑るのではなく、スケートで別の競技まで描いてみせる。
その遊び心と完成度にも感心した。
「継承」まで見せてくれたショー
後からテレビ録画を見返して、改めて素敵だと思った場面もある。
ショーの中に、小さな男女ペアのスケーターたちが登場していたことだ。
世界のトップを走ってきたカップルたちの間に、これからの世代が入ってくる。
それは単なる可愛らしい演出ではなく、私には**「継承」**を見せているように感じられた。
ペアもアイスダンスも、技術だけでなく「二人で滑る文化」そのものを次の世代へ渡していく競技なのだと思う。
「カップル競技を見せる」
「カップル競技を楽しむ」
「そして、次へつなぐ」
DESTINYは、世界最高峰の技術だけではなく、遊び心と未来への視線まで感じさせてくれるショーだった。


東京タワーで「Couture on Ice」へ
DESTINYの余韻を残したまま、次に東京タワーへ向かった。
タワーミュージアムで開催されていた「Couture on Ice」は、羽生結弦さんの衣装と、その衣装をまとった姿を撮影した写真作品の展示だ。
展示されていた実物衣装は4点。
もっと多くの衣装を見ることができると思っていたので、正直なところ、点数については少し物足りなさを感じた。
一方で、写真集に収録された作品の大きな銀塩プリントは見応えがあった。
衣装の細かな装飾や羽生さんの表情を、来場者が一枚ずつじっくりと眺めていた。


スタッフの方々もフレンドリーだった。
「羽生さんはこの衣装を気に入っているそうですよ」
「この装飾は本当に素晴らしいですよね!」
「こんなに細い衣装を着られるなんて、羽生さんはなんてスマートなんでしょう^^」
そんなふうに自然に話しかけてくださり、楽しく温かな時間になった。
私がひかれたのは、完成した衣装より「制作過程」だった
会場では、今回の展示のもとになった豪華な写真集も販売されていた。
価格は2万円台。
とても美しい本だったが、私は少し手が出なかった。
その代わりに購入したのが、写真集制作の舞台裏を収めたメイキング写真集だ。
そこには、羽生さんの衣装を長年担当している伊藤聡美さんの緻密な仕事が記録されていた。
羽生さんが実際に衣装を着て調整する姿。
二人でフィッティングをする様子。
そして、氷の上で衣装の動きや見え方を確かめる場面。
完成した華やかな衣装だけではない。
一着の衣装が「作品」になるまでに積み重ねられた時間まで、美しい写真として残されていた。
私はそこに強くひかれた。
美しいものの裏側には、美しい仕事がある
美しいものの裏側には、美しい仕事がある
DESTINYでは、選手が最高の演技をするために、競技と同じ広さのリンクが用意されていた。
Couture on Iceでは、羽生結弦さんの演技を支えてきた衣装と、その衣装を生み出す制作過程を見ることができた。
二つに共通していたのは、表舞台の華やかさだけではない。
最高の瞬間を生み出すために、その裏側で積み重ねられた仕事の美しさだった。
リンクいっぱいに広がるスケーターの動き。
演技の一瞬を美しく見せる衣装。
私たちが「きれいだ」「すごい」と感じる瞬間の裏側には、それを生み出すための多くの時間と工夫がある。
そんなことを考えながら会場を出た。
その後は、少しだけ改修中の増上寺にも立ち寄った。


世界最高峰のスケーターたちの演技と、羽生結弦さんの衣装を支える職人の仕事。
香川から始まった東京で芸術を巡る二日間は、こうして華やかに幕を開けた。
香川へ来る旅では、FD+roomを拠点に
今回は香川から東京へ出かけた旅だったが、旅をすると改めて「どこを拠点にするか」の大切さを感じる。
そして東京で芸術に触れていると、瀬戸内の島々や高松の街など、香川にも旅をしながら出会える風景や文化がたくさんあることを思い出す。
私が香川・高松で運営しているゲストハウスがFD+roomだ。
観光地を次々と回るだけではなく、街を歩いたり、好きなものを見に行ったり、その土地の日常を楽しんだりする。
FD+roomには、そんな旅を楽しむ方に滞在してもらえたらうれしい。
東京から香川へ。
あるいは、日本各地から瀬戸内へ。
次の旅先に香川を選んだときには、ぜひFD+roomを旅の拠点の一つとして思い出してほしい。
第2回へ続く
次回は、羽生結弦さんの衣装の余韻を抱えたまま向かった、東京・鶯谷の「萩の湯」へ。
浴場の壁いっぱいに貼られた手書きの読み物。そして浅草で食べた、旅先ならではの焼き魚定食。
東京の「芸術」から、今度は東京の日常へ。香川から芸術を巡る東京二日間②へ続きます。

