林望(1949.2.20- )『春夏秋冬 恋よこい』春陽堂書店 2022年4月刊 246ページ 丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)「王朝和歌とモダニズム」『後鳥羽院 第二版』筑摩書房 2004年9月刊

林望(1949.2.20- )
『春夏秋冬 恋よこい』
春陽堂書店 2022年4月刊
246ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4394904145
「「源氏物語」に「平家物語」「伊勢物語」や
「枕草子」「徒然草」…
リンボウ先生が日本の古典の代表作の中の
「恋」を解説!
有名な日本の古典の内容が理解できるだけではなく、
大人が知っておきたい教養も身につく1冊です!」
「万葉集、源氏物語、新古今和歌集などなど、
古典文学の中の男女の恋のさや当て、駆け引きなど、
原文と現代語訳を織り交ぜてリンボウ先生が
「恋」を解説。楽しく読める大人の古典。
序章
1 『翁』の詞章の不思議
2 男女の出会いは…
第一章 春は恋の季節
1 『万葉集』の竹取翁と野遊びの乙女たち
2 『枕草子』の「春はあけぼの」の背後に…
3 才気煥発、和泉式部の自由自在
4 藤原定家の「夢の浮き橋」
5 隅に置けない兼好法師
第二章 夏よ恋
1 夏の恋は短夜の風情
2 短夜の和歌
3 夏の悲しい別れ
第三章 秋よ恋
1 秋の夜長も恋人たちには短いはずだが…
2 『伊勢物語』と秋の月
3 『源氏物語』秋の名場面、野宮の別れ
4 『平家物語』、その秋の名場面
第四章 冬よ恋
1 『枕草紙』むとくなるもの
2 『徒然草』の色模様
3 『閑吟集』に見る屈折した女心
4 『新古今集』に隠された恋の情調
終章 『源氏物語』と愛の絵
1 睦みあう絵
2 『古今著聞集』の「おそくづ」
3 『小柴垣草子』という絵巻
4 愛の絵の力
林望 (ハヤシノゾム)
1949年生まれ。作家・国文学者・書誌学者。
慶應義塾大学大学院博士課程修了。
ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授などを歴任。
ケンブリッジ大学、オックスフォード大学双方で研究のため、
英国滞在。 滞在中の体験から随筆
『イギリスはおいしい』(平凡社/文春文庫)出版。
同作で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。
その後、随筆、小説のほか、 歌曲の詩作、能評論などの著書多数。」
福岡市総合図書館蔵書
2022年6月16日読了
「古来、日本では、朝を認識するのに、夜のほうから見て、
その夜の果ての時間というふうに感じるときは、
これを「あした」といった。
日が暮れると、夕方から宵になり、夜になり、夜半(よわ)になり、
やがて「あした」となる。
朝は日が昇ってから朝になるのではなくて、
夜の時間が深くなったはてには、
まだ真っ暗な早朝を「あかつき」もしくは「あかとき」と言った。
それから、すこし朝の気配がしてくると「しののめ」、
東雲という漢字を宛てる。
さらに、もうちょっと空が白んでくる時分が「あけぼの」。
さらに、夜通しなにかをやっていて、それがすっかり終わって、
まったくの朝にになってしまった明るい時間を、
「つとめて」と言った」
p.61-62
「『枕草子』は、徹頭徹尾女の視線で書かれているので、
いわば、冒頭の「春はあけぼの」というのは、
男が恋の閨から帰って行った、そんな時間に、
女がまだ閨にあって、ほんのりと空が明るくなって行く
外面(とのも)の景物をそっと眺めやっている
という気分がこもっているように感じられる。
朝というのは、つまりこんなふうに、
夜から深夜、暁、あけぼの、つとめて、あした、
と移って行く恋の時間としての微妙な、
そして意味の重いものがあったことを、
私どもは勘案しておかなくてはならぬ。
その事を含めての、
「春はあけぼの」だったのだと読んでおくと、
冬の「つとめて」が、ばかに散文的で
ビジネスライクなこともよく分る。
春のあけぼのは、閨から見る空の佇まいもなまめかしく美しい
のに対して、男もすっかり去ってしまった冬のつとめては、
なんだかざわざわとしていて、あまり情緒的ではない。
かにかくに、『枕草子』などを読むときは、常に、
こういう恋の情緒が裏打ちになっていることを意識して読むのが
本統(ほんとう)というものである。」
p.67-68
「第一章 春は恋の季節
2 『枕草子』の「春はあけぼの」の背後に…」
古典の授業では教えてくれなかった、
「本統」の「情緒」?
「第一章 春は恋の季節
4 藤原定家の「夢の浮き橋」」
春の夜の夢のうき橋とだえして峰にわかるる横雲の空
藤原定家朝臣
守覚法親王、五十首歌よませ侍りけるに
新古今和歌集 巻第一 春歌上 38
「「五十首歌」というコンセプトのなかで詠まれたもので、
実際の景物を見て写実的に詠んだものではない。
春十二首、
夏七首、
秋十二首、
冬七首、
雑十二首
と五つの部立てにそれぞれ詠んで取り合せた、その春の歌。
単なる叙景歌として読んだのでは面白くもない。
思い浮かぶのは、
『源氏物語』最終帖「夢浮橋」であろうが、
そのなかには、夢の浮橋、ということを詠じた歌は出てこない。
しかしながら、あの藤壺宮の崩御が描かれる「薄雲」の帖に、
「世の中は夢の渡りの浮橋かうちわたりつつものをこそ思へ
(ああ、男女(おとこおんな)の仲というものは夢のなかで渡っている中空(なかぞら)の浮橋のようにたよりないものであろうか、こうして世を渡ってゆきながら、物思いばかりしている)」
という古歌がある。
源氏物語古注釈の
『奥入(おくいり)』に引かれている歌で、作者や出所は不明。
「世の中」というのは、単なる世間という意味ではなくて、
「男女の仲」という意味。
男女の仲の、あまりにもふわふわと頼りないありさまをば、
「夢の渡りの浮橋」と表現している。
春の短夜はあっという間に明ける。恋しい人と過ごす一夜は、
あの夢のなかで見る中空に浮かぶ橋のようなものだという
古歌さながら頼りないものであろうか。
見れば夢の逢瀬がたちまち終わるように、
夢の浮橋もたちまち途切れて、
峰に遮られてふたつにわかれ、
横に名残惜しく棚引いているじゃないか。
とでもいうような複雑な思いを、
古典を引き事にすることによって、詠じ得ている。
当然、守覚法親王[しゅかくほっしんのう 1150-1202 後白河天皇第二皇子。式子内親王の同母弟。仁和寺御室]をはじめ、
当時の歌人たちは、その定家の思いを共有できたはずである。」
p.71-76

「象徴主義の詩がモダニズム文学の重要な部分であるどころか、
むしろモダニズムが発生した基盤であることは言ふまでもありません。
そしてこれはむしろ、
『新古今』歌人たちの求めた余情妖艶(よせいようえん 直接的な
表現以外の連想や余韻によつてかもし出す王朝の優美)といふのは、
縹渺たる味はひによつて意味と情趣を増幅するもので、
象徴派およびその影響下にあるモダニズム文学に通じる趣がある。
余情妖艶の風はそれ以前からの王朝和歌の積み重ねのせいもあるけれど、
藤原定家の探求と後鳥羽院の奨励によつていよいよ発達し
洗練されました。たとへば、
春の夜の夢の浮橋とだえして峯に別るる横雲の空
は、春夜における閨房の快楽と後朝(きぬぎぬ)の別れとを歌ひあげて
まことに官能的であり、憂愁にみちてゐる。この場合、
「春の夜の夢の浮橋とだえして」と「峯に別るる横雲の空」とは
真二つに切れてゐて、その断絶が(もちろん恋人たちの別れを
表現しながら)解釈の上では想像を刺戟し、意味とイメージを曖昧にし、
重層的にします。「峯に別るる」ものは「横雲」であり、
また恋人たちである。男と女は夜明けの空に横たはりながら
しかも離れる。上の句と下の句は助詞テでつないであるけれども、
この接続はまことにほのかで、これはまた男女の関係、
雲の姿の表現となるのでせう。
また定家の詠は、「夢の浮橋」といふ句によつて
『源氏物語』の最後の巻「夢浮橋」をちらつかせ、
浮舟の落飾と沈黙とによる謎めいた(とも言へる)結末を思ひ起させ、
さらには『源氏』全体の世界を大きく浮かびあがらせて、
宮廷人の恋の種々層を喚起する。かういふ、言及と連想による複雑化は、
モダニズム文学で多用されました。」
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「王朝和歌とモダニズム」
『文學界』
2001年1月号
『後鳥羽院 第二版』
筑摩書房 2004.9 p.357
https://note.com/fe1955/n/n56fdad7f55bb
「和歌の集で格の高いのは勅撰集で、
これは国王の命によつて編まれる詞華集だから、
いはば一国の文化を導くものだつた。
その勅撰集の部立(ぶだて)では
四季の巻と恋の巻とが主要なもので、
まづ春夏秋冬の歌によつて季節の正しい循環を予祝し、
次いで恋歌によつて人の心をやはらげるわけだが、
しかし四季を詠む歌と言つても、
純粋に季節の移り変わりだけがあつかはれるわけではない。
たとへば八番目の勅撰集
『新古今和歌集』の巻第一春歌上を見ると、
1番から36番まではともかく、
37番、38番となると様子が違つて、
かすみたつ末の松山ほのぼのと浪にはなるる横雲の空 藤原家隆
春の夜の夢のうき橋とだえして峰にわかるる横雲の空 藤原定家
の二首は春そのものよりもエロチックな情趣が主題となる。
[略]
44番から47番までは
梅の花にほひをうつす袖のうへに軒もる月のかげぞあらそふ 藤原定家
梅が香に昔をとへば春の月こたへぬかげぞ袖にうつれる 藤原家隆
梅の花たが袖ふれしにほひぞと春や昔の月にとはばや 源通具
梅の花あかぬ色香も昔にておなじかたみの春の夜の月 藤原俊成女
と『古今』在原業平
「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身一つはもとの身にして」
の本歌どりによつて、過ぎ去つた恋の思ひ出にひたる。
かういふ調子で、恋歌は春歌にまぎれこむ。」p.36
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「恋と日本文学と本居宣長」
『群像』
1995年2月号
『恋と女の日本文学』
講談社 1996.8
『恋と日本文学と本居宣長 女の救はれ』
講談社文芸文庫 2013.4
https://note.com/fe1955/n/nc2a702c6af1f
読書メーター
林望の本棚
登録冊数16冊
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091283

https://note.com/fe1955/n/n2b8658079955
https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/696659547075354
昨日拾い読みした本。林望 『女うた 恋のうた』http://bit.ly/1mGvE4f #bookmeter 淡交社 2014年8月刊。 『なごみ』2013年1月号〜12月号連載を加筆、書き下ろしを追加。...
Posted by 山本 鉄二郎 on Tuesday, September 23, 2014
五年前に読んだ本。 林望 『リンボウ先生のうふふ枕草子』 http://goo.gl/uwKRfM #bookmeter 祥伝社 2009年3月刊。2010年4月11日読了。 『小説NON』の連載[時期不明]に大幅に加筆した本。 ...
Posted by 山本 鉄二郎 on Wednesday, July 1, 2015
五年前に読んだ本。 林望 『古典文学の秘密 (光文社文庫)』 http://goo.gl/0QN3Xp #bookmeter 光文社 2010年5月刊。2010年8月8日読了。 『本当はとてもえっちな古典文学』扶桑社 2003.3...
Posted by 山本 鉄二郎 on Tuesday, June 30, 2015
昨日読み終わった本。 林望『役に立たない読書(インターナショナル新書)』集英社インターナショナル 2017年4月刊。205ページ。 https://bookmeter.com/books/11596977...
Posted by 山本 鉄二郎 on Monday, May 22, 2017
昨日読み終わった本。 林望『旅ゆけば味わい深し(わたしの旅ブックス 003)』写真・カバーイラスト 林望 産業編集センター...
Posted by 山本 鉄二郎 on Thursday, July 12, 2018
読書メーター
丸谷才一の本棚
登録冊数183冊
刊行年月順
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091201
高校生の頃(1970-72)に読んだ
福永武彦・中村真一郎・丸谷才一
『深夜の散歩 ミステリの愉しみ』
早川書房 1963.8
https://note.com/fe1955/n/n26e000989c48
https://note.com/fe1955/n/nf236daad7399
以来五十年以上読み続けてきました。

丸谷才一本所蔵一覧
60冊 単行本刊行年月順
2020年10月13日作成
https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/4541208092620461
その後、
アマゾン中古を40冊購入して、
現在は101冊。
今日は八年前に87歳で亡くなられた丸谷才一さんの命日です。 ウィキペディア https://goo.gl/TuZm5X 「丸谷 才一(まるや さいいち、1925年(大正14年)8月27日 -...
Posted by 山本 鉄二郎 on Monday, October 12, 2020
"発表年月日順・丸谷才一作品目録.xls"
エクセルファイル(約三千行)
単行本・文庫本90数冊分の
目次・初出・書評対象書を、
発表年月日順に並べ変えて
編成、作成中。
完全編年体・丸谷才一全集
(の目次・内容一覧)
1925年8月27日誕生
2012年10月13日逝去
「ゆがんだ太陽」
『秩序』第1号(1952年1月発行)
~
「わが青春の一ページ
桐朋学園音楽科60周年記念
コンサート・祝賀会での挨拶
2012年10月8日」
『別れの挨拶』集英社 2013年10月刊
を夢想(妄想)してます。
https://note.com/fe1955/n/nf2e83d450460
https://note.com/fe1955/n/n8c96e31ad867
