見出し画像

けんかをやめて(汗)

出張から帰り、のんびりヤギを散歩させていた。
そんなことをする人はおらず、珍しいようだった。
ヤギは食べ物だから。
案の定、たむろしている男たちに声をかけられる。

「何してるんだ」

「ペットと散歩だ」と答え、笑われた。

そのヤギ、俺に売れ
売らないよ
10でどうだ
売らない

そんなやりとりをしながら、じりじりと囲まれている。
困ったな、ここは 風の尾根の集落だ。
しかし都会でからまれずに 田舎でこんなことになるとは。

とそこへ、車が通りかかった。運転手が身を乗り出すと、それは、この間魚をくれた少年の父親だった。

「おお、どうした。こんなとこで何をしているんだ」

この人たちが、ヤギを売れと言うから断っていた、と言うと、
少年の父親は車から降りて、地元の言葉で話し、まくし立てた。びっくりした男たちは家に退散した。

「ありがとう」
「こんなところで何してるんだ。ヤギなんか連れて散歩してたらやられるに決まってるだろ。帰れ」
と言って車に乗って行ってしまった。助かった。それにしても運がよかったな。

しばらくして集落の取りまとめ役が来た。

「となり村の奴らにからまれたんだって?」
あの父親から聞いたんだな。
「いやいや、俺はただ散歩しただけだ」
「しかし、こういうことは次につながるかもしれない」
今度はヤギが盗まれる、という話になった。
「大丈夫だ。ちゃんと囲いの中で飼ってるから」
簡単だぞ と、 取りまとめ役は 腰を下ろして ヤギを背中に担いで 走り去っていくものまねをしてみせる。

こちらも、オーバーアクションで気持ちを伝え、ようやっと帰ってもらった。
しかしこんな形で村のつながりのようなものを目の当たりにして、驚いた。まいった。

そういえばまだお礼を言いに行っていなかった。少年の父親のところへ出向くと、父親はまだ面白くない顔をしていた。

「まあ無事でよかった。あいつらのことはわかっている。今度とっちめてやるから」

「いやいや、俺が原因で喧嘩はやめてくれ」とお願いした。

とりあえず、父親を落ち着かせてもう一度礼を言い、家を出る。外にはこの間の少年がいた。シャボン玉遊びをしていた。
「やさしいおとうさんだな」と、少年に言って帰った。

一時はどうなることかと。
私のために喧嘩をして、怪我でもされたら大変だ。
ふと昔聞いた「けんかをやめて」と歌うアイドルの歌が脳内に流れて一人で笑ってしまった。

まあ、これがこの辺りの助け合いの習慣というものか。
仲間を思う気持ち、というものか。

余談だが、先日 都会に出張した際 健康診断をした 。その場で 現地の医者に 尿検査の結果、 腎臓に異常があるかもしれないと告げられた。その晩、ホテルの部屋で心配になり、 AI に聞くと、もう完全な 重病になっているらしく、どうにも落ち込んだことがあった。
 結局は 一過性の疲れ だと わかり、 自分の思い込みを 恥ずかしく思いつつ、目の前の医者が神様に見えた。 
それから 村の近所の人を大切にしようと 勝手に誓っていたことを思い出した。

今、集落の仲間入りをしたような気になった。
これはやっぱり大切にしなくてはいけない。

いいなと思ったら応援しよう!