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「開示命令」の落とし穴(に落ちた私)の話~#2 開示請求そのものは悪くない


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この内容が世に広まるだけでも意味があると、私は思っております。


前回のおさらい


こんにちは。フェミニスト・トーキョーです。
タイトル「#2」とついている通りに、この記事には前段の話がありますので、もしそちらを読まずに開いた方は先に下記の記事をお読みいただいてからの方が理解がスムーズかと思いますので、よろしくお願いします。

経緯をかいつまむと、

・X(旧twitter)で私がリポストしたポストが、ある人から「名誉侵害だ」と言われて「リポストも同罪だ」として開示請求を受けた
・情報開示されてしまったら、相手方から示談金の請求が来た
・そもそも元ポストの内容が名誉侵害だと思っていないので放っておいたらガチの訴訟を起こされた←イマココ

という感じです。

こちらのnoteに関しては大変に大きな反響をいただきましたが、その中で当然ながら「ただの自業自得だろ」という意見も多々ありました。
これはまったくもってその通りですとしか申し上げられません。私のリポストというアクションが無ければ発生しなかったのは間違いありませんから。

ただ、そうお思いの方にこそ、これが罠とも言えないレベルで簡単に落っこちる、それこそオレオレ詐欺なんかよりも手軽にハメられる落し穴ではないか、ということを知っていただきたくて、考察をもう少し掘り下げてみることにしました。
私のように訴訟なんていうところまで行かなくても、というよりもどうやら訴訟まで行くほうが稀で、落し穴に足が引っかかった辺りでいきなりゲームオーバーになることもある、というのを解説して参ります。


大前提:開示請求の簡易化という方向性は一切悪くない


前記事に引き続き申し上げておきますが、私は今回「被告」の立場です。
訴えられた側です。世の中的に見ればワルモノです。

ですのでこれからお話しするのは、私の訴訟における云々ではなく、2022年に改正された「プロバイダ責任制限法」によって生まれた「開示命令」というプロセスにおいて、実際に起きてしまうことをご説明します。

ここで、副題にも書いた通り大前提としておきたいのは、
「情報開示のプロセスが簡易化および迅速化されたこと自体は一切悪いことではなく、歓迎されるべきであり、被害者保護の理念としても妥当である」
ということです。
少なくとも私はそう思っています。

今回いただいた意見から抜粋しますと、

ワイは開示で訴えた側やけど。
今まで日本って個人の権利が蔑ろにされてきたのと、まとめサイトみたいに個人の名誉を傷つけたり侮辱する行為が平然と行われてきた弊害だと思う。

https://x.com/shi_chan35p/status/1869862579734208932

とのことなのですが、まったくもってその通りだと思います
完全に同意です。

私も今回たまたま訴えられている側なだけで、自分が名誉を毀損されているとしか思えない事象にぶち当たり、いざ情報開示だ訴訟だとなった時に、そのプロセスが非常に複雑であったり、時間がかかったり、莫大な予算を投じなければならなくて泣き寝入り、なんてことになったら、どれほどの悲しみや理不尽を感じるだろうか、というのは容易に想像できます。

ですので、情報開示の簡易化には何ら反対する気はありません。
そもそもこれによって救われた人も相当いるであろうことは間違いないでしょう。

――ただし。

これは全てのケースにおいて、
「訴えられた側が間違いなく悪いことをしていて、裁判まで行っても『確かにこいつは悪い奴だね』となる場合」
が該当するならば、の話です。

訴える側を悪く言うつもりはないですが、実際には単なる誤解や齟齬であったり、一時的な憤りによって訴えを起こされることも少なからずあるでしょう。でも、よくよく話を聞いてみたら話し合いで解決できるレベルのものだったなんてこともあります。

でも、そういう場合でも訴えることは可能ですし、訴えという形になれば、受ける側もそれなりの負担を強いられることになります。

イコールではないですがシチュエーションとして近しいものとして、昨今よく話題になる痴漢など性犯罪の冤罪事件を、私は思い浮かべます。

きちんと時間をかけて証拠や証言を集めて捜査し、裁判で争うことができれば無罪になるような事象であったとしても、
「この人、痴漢です!」
と叫ばれただけで、その瞬間にいきなり人生に終了ランプが灯るような。

今からお話しするのは、そういう類の話です。


初手を通されたらいきなり詰むゲーム


繰り返しで恐縮ですが、Xにおける開示命令のプロセスは概ね以下のような感じです。
(なおここでは文章の都合上、訴える側=原告、訴えられる側=被告、と呼称します)

①原告が被告の投稿に対して、裁判所に開示命令の申立をする

②裁判所は①が妥当だと判断したら、Xに対して情報開示の命令を出す

③Xは②の請求に対して、裁判所にIPアドレス等の情報を渡す
(この時点で原告にはXからの情報開示がされたことが伝わる)

④裁判所は③によって明らかになった被告の使用するプロバイダ(あるいは携帯キャリアなど)に対して、情報開示請求を行なう

⑤プロバイダは被告に連絡して開示に応じるか否かをヒアリングし、応じない場合は意見書を添えて、応でも否でも裁判所に返信する

⑥裁判所は意見書の内容などを参考にし、それでも原告の訴えが妥当だと判断した場合はプロバイダに対して情報開示の命令を下す

⑦プロバイダは⑥の決定如何で被告の情報を裁判所に開示する

⑧裁判所は原告に⑦で開示された情報を渡す

⑨原告は⑧の情報をもとに、必要に応じて示談交渉や裁判を行なう

フェミトーはいま⑨の段階にいるわけですね。

さて。

これをざっと読むと、示談の交渉って私のように⑨まで進んだ時点でようやく行われるように見えますよね。

違うのです。

私は当てはまらなかったのですが、今回の件で色んな方からお話しを聞いていると、どうやら、

③Xは②の請求に対して、裁判所にIPアドレス等の情報を渡す
(この時点で原告にはXからの情報開示がされたことが伝わる)

ここでもう、いきなり原告が示談金などの請求をしてきた、というパターンが非常に多いことが分かっています。

上記の太字部分、原告にもXからの情報開示がされたということが伝わるとはありますが、ここで原告側に伝わるのはIPアドレスくらいで、普通に考えれば被告の連絡先など分からないわけですが。

そこはそれ、Xですので。

まず②の時点で、被告側には自分が開示請求をされているというのは伝わっていますから、原告はDMなどを使って、

「あなたに開示請求をしたのは私です。今から申し上げる示談の条件に応じない場合はこの先のプロセスへ進みます。訴えが通ればあなたの個人情報が開示されることになります」

てなことを連絡してきます。
DMを閉じている場合は、リプや引用などで「お話があるのでDMを開けてください」という感じに言ってきます。

これって脅迫に当たらないの?と思われる方もいらっしゃると思いますが、裁判所を通じて正式に訴えたことによって発生した事実を述べているだけなので、脅迫にはなりません。

「示談に応じなければ◯す」とか「家族をひどい目に遭わす」みたいなことを言ってくれば脅迫に成り得るかもですが、プロバイダへの情報開示に進むというのは開示命令のプロセス的にはただの順当な話です。
それを「条件を呑むなら止めていいよ」と言ってくるのは、脅迫どころかむしろ譲歩ですらあるわけですので。

そして、この段階で示談交渉してくることの怖さがもう一つあるのです。

被告からすると、相手方(原告)が誰なのかはこの時点で分かるわけですが、どの投稿の何の件に関してなのかは分からなかったりします。

先に書いたプロセスで、②ではXから「開示請求がされたよ」という通知だけは来ますが、どこの誰から、何の件で請求されたのかは教えてもらえません。
③で示談の交渉が来れば、どこの誰かまでは分かりますが、自分がしたポストなのか、リプなのか、リポストなのか引用なのかといったことは、原告が教えてくれない限りは分からず、原告もあえて教えてくれなかったりします。

なんなら私のように、相手が「自分がリポストしたポストのスクショに写っているだけの人」というパターンまで含めると、DMをもらったとしても、どこで絡んだ誰だったのかすら思い出せない、ということもありそうです。

そういう風に、判断材料が非常に乏しい状況で、示談に応じるか否かという判断を迫られるわけです。
もしかしたら本当に些細な話で、異議をとなえれば余裕で勝てるような話だと分かれば、この段階では示談に乗らないという判断もしようがありますが、それも出来ない状態で、
「この先の裁判に進んだら示談金を上回る金額を払わなければならなくなるかも知れない」
という最悪のパターンも頭に浮かぶことでしょう。

そうなると、この段階でもうさっさと手を切るために、早々に諦めて示談に応じてしまう人も出てきてしまうのです。

***

……といった極めて有利な交渉を、原告となった側は本人訴訟であれば、手順①を裁判所に支払うわずかな手数料だけで行なうことが出来ます。

もう一度手順を見てみますが、

①原告が被告の投稿に対して、裁判所に開示命令の申立をする

②裁判所は①が妥当だと判断したら、Xに対して情報開示の命令を出す

③Xは②の請求に対して、裁判所にIPアドレス等の情報を渡す
(この時点で原告にはXからの情報開示がされたことが伝わる)

①で手数料を支払い、②さえ通れば、③でもういきなり示談金の交渉に進めるのであれば、②をどうやって通すかだけ考えればいいのです。
何なら④以降の手順など全て付加的なものでしかなくて、最初から裁判なんかするつもりもなく、③の段階の示談交渉で失敗したらもうそのターゲットは諦める、とかすれば手間も少なくて済みます。

こうなると「数撃ちゃ当たる」という作戦に出る人間もいるわけで、前記事で触れた一人で数十件も数百件も開示命令の申請を持ち込む人がいるという話はこういうことなのだろう、と思っております。

そしてこれを食い止めるのには、②の段階で裁判所が申請の精査に最大限の注力をする必要があるわけで、現状それは実現できているのだろうか?と、どうしても思ってしまいます。


最終的に困るのは「被告」ではなく「原告」側


重ねて申し上げますが、開示請求がしやすくなったことは、名誉毀損や著作権侵害などの被害者の立場からすれば歓迎すべきことであり、何ら異存はありません。

ですが、私が最も懸念しているのは、
「訴えることがカジュアルになりすぎると、訴える側の社会的信用度が下がって、結局は被害者側がリスクを負うことになるのでは?」
という点です。

性的被害の話をちらっと引き合いに出しましたが、大きく話題になっていた草津町の町長に対する虚偽の告発事件がまさしくそれだと思っています。

ハラスメントや差別というものを、まるで明日の天気の話でもするかのようにポンポンとやかましく口にする人がいますが、誰かの運命を左右するようなそうした言葉は、軽々しく相手に向けるようなものでは本来ないはずです。

童話の「狼と羊飼いの少年」そのままで、被害を訴えていたはずの側に疑わしき事由があり、しかも何度も続いたりすると、

「あなたが主張していることは本当なのか?」
「本当だとしても、大袈裟に盛ったりはしていないか?」
「何か他に目的があるのではないのか?」

などと、被害を訴える側が「またか」という目で見られることになってしまったら本末転倒でしかありません。

開示請求、開示命令の制度自体は正しいものだと思いたいので、実際の運用も正しくされるように、何かしらの手を打っていただければと願うばかりです。

(了)


最後までご精読いただき、誠にありがとうございました。

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