Momのガスパチョに、少しだけ麹を——世界は、麹でもっと美味しくなる
Issue 008|THE RECIPE 台所のこと
夫は、大のカタルーニャ料理好き。子供の頃、彼の祖母がよく手料理を振る舞ってくれたそうで、そんな家族の記憶が、彼にとってのカタルーニャ料理への愛着の原点にあります。
日本に住んでいた頃、美食の地として知られるスペイン・カタルーニャを代表する、ミシュラン三つ星のシェフ、カルメ・ルスカイェーダが手がけていたレストラン「サンパウ」に、私たちはよく二人で足を運びました。
そこは、私たち二人にとって、言葉では言い尽くせないほど特別な思い出が詰まった場所でもあります。その美しく創造性あふれる料理に触れるたび、私は「彼のルーツでもある郷土料理を、自分でも作れるようになりたい」という思いを強くしていきました。そしていつか、それを子供たちへも受け継いでいけたら、と。
後に私の家族もサンパウを訪れました。
それまで漠然と抱いていた「カタルーニャ料理」や「スペイン料理」のイメージが、本物の一皿によって静かに覆されていくのを皆が感じました。それはちょうど、海外へ出て私たちが時々出会う「Japanese Restaurant」という看板と、本当の日本の味との違いに驚く、あの感覚に少し似ています。
サンパウは、惜しくも今は閉店してしまいましたが、午後の光が静かに部屋を満たすこのテーブルで交わした会話は、今でも心に残っています。あの時間が、私にカタルーニャという食文化への扉を開いてくれました。

義母とは離れた場所に暮らしていますが、訪れるといつも、さっと美味しいものを作ってくれます。ガスパチョも、そんな思い出の一皿の一つ。
ガスパチョはもともと、暑い夏を過ごす人々が、手早く栄養を補うために生まれた料理だと言われています。
トラディショナルなレシピに、常夏のハワイで暮らす私なりの工夫を加えられたら——そんな発想から、ある時スイカを加えてみました。これがとてもみずみずしく美味しくて、それ以来、夏はこのレシピがわが家のお気に入りになっています。
このガスパチョは、暑さで食欲が落ちてしまう日も、不思議とするすると飲める、わが家の夏の定番です。そして、ホームパーティーで出せば、必ずと言っていいほど喜ばれる一皿でもあります。
⊹
ある日、いつも使っている塩の代わりに、ふと塩麹を試してみたんです。何か大きく変えようと思ったわけではなく、ただ台所にあったから、という些細なきっかけで。
でも、味わってみて驚きました。野菜やフルーツの味が、いつもよりまろやかに感じられたのです。
麹は、和食のための調味料——そんな風に思われることが多いかもしれません。でも実際は、麹はただ「発酵の力で旨みを引き出す」という、とてもシンプルな仕事をしているだけ。だからこそ、和食に限らず、世界中どんな料理にも、静かに寄り添うことができるのだと思います。
義母から受け継いだ、カタルーニャの夏の味に、日本の麹がそっと重なる。国も文化も違う味わいが、台所の上で自然に出会う瞬間が、私はとても好きです。

トマトは缶詰や、普段お使いのトマトでももちろん美味しく作れます。ただ、エアルームトマトを使うと、あのとびきり瑞々しく、柔らかな酸味がこのガスパチョに最高に合うんです。もし手に入るようであれば、ぜひ試してみてください。

また、使用するシェリービネガーは、シェリー酒を発酵させて作られるぶどう酢。シェリー樽由来の芳醇な香りと、ツンとしないまろやかで奥深い酸味が特徴で、ガスパチョやドレッシングに使うのにぴったりなお酢。もしお手元になければ、普段お使いのお酢でももちろん美味しく作れます。
⊹
⊹ スイカとエアルームトマトの塩麹ガスパチョ(4人分)
エアルームトマト 大きいサイズ1個
パプリカ 1/2個(緑・赤・黄いずれでも)
玉ねぎ 1/4個
きゅうり 1/2本
にんにく 1片
スイカ 1/4個くらい
オリーブオイル 大さじ3
シェリービネガー 大さじ1
スモークパプリカ 大さじ1
塩麹(塩の代わりに) 大さじ1
すべての材料をブレンダーへ。塩の代わりに塩麹を加え、なめらかになるまで撹拌します。私は野菜の鮮度と風味がベストな状態で味わえるよう、使用する野菜を冷蔵庫でよく冷やして、食べる直前に撹拌しています。
⊹ ガーニッシュ

イエロートマト、スイカ、きゅうりを小さくダイスに切り、オリーブオイルとシェリービネガーで軽くマリネして冷やしておきます。スープの上に添えて、彩りと食感のアクセントに。
仕上げに、お好みで挽きたてのブラックペッパーとオリーブオイルをひと回し。より香り豊かに仕上がります。

遠く離れた場所で生まれたレシピも、少しずつ自分の暮らしに馴染んでいく。
「今日はこれに、麹を入れてみようかな」——そんな小さなひらめきから、あなたらしい一皿が生まれたら嬉しいです。
With aloha,
Reiko
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたサポートは、新しいレシピや物語づくりに大切に使わせていただきます。