ソラ猫たちの白昼夢 第12話(最終話)
目が覚めた。
青空。
山羊たちの目。
メエエ
「うお」
夏草から起き上がる。山羊たちも驚いて逃げ出す。
山羊が3匹。
港のそばの文房具屋さん。
夢を見ていた気がする。下校の時に寝っ転がってそのまま寝ちゃったんだ。
空の夢
重力が逆さまになって、空に飛んでいく。そんな夢を見てた。
そのほかにもいくつか。
歩いているときに見てたやつもある。
「白昼夢・・・」
わたしは文房具屋さんに入った。お姉さんが気だるそうに雑誌を読んでいる。小学生には愛想いいくせに、私は素行が悪いからかしらないけどいないも同然の扱いだ。
「めずらしいね」
「ねえ、おねえさんはさ」
「なに」
「白昼夢って見たことある?」
「ハクチュウム? なに突然」
「なんか起きてるときに夢見たいな幻覚をみるやつ」
「ああ〜、そんなのしょっちゅうよ。こうやって雑誌を読んでるでしょ。すると店先にイケメンが現れてさ、「ちょっとお尋ねしますが」なんて言ってわたしに話しかけてくるわけさ」
「それは妄想でしょ。ちがう、私が言ってるのは」
「そういうものでしょ。何かが目に映るのよ。そしてそれが私を喜ばしてくれるのよ。でもそれでいいじゃない。わたしはそれのおかげでこんな退屈な仕事でも楽しいのよ。夢でも現実でもおんなじことでしょ。なにかが見えて、それを信じるの」
「・・・」
「で、今日はひやかし?」
「ナイフが欲しい」
「ナイフっていろいろあるけど」
「・・・ペーパーナイフ」
「ペーパーナイフね。あんたは本当のナイフは持たない方がいいよ」
「・・どうして?」
「ろくなことをしなさそう。思い詰めたら。でもあんたが思い詰めることなんてないか」
「・・・ 」
「ああ、ごめんごめん、人は見かけで判断しちゃいけないよね。で、白昼夢がなんなの?」
緑色のエプロンをしたお姉さん。カウンターに肘をついた。
「白昼夢っていうか、、おねえさんはこの世界は一つだけだと思う?」
「思う」
「どうして?」
「どうしてって、いい? 夢だろうが白昼夢とやらだろうがなんだろうが、私がいて、何かをみてる。それがいくつあっても、忘れてしまったとしても。
だから世界は一つだけで、ずっと続いてる。980円。そのペーパーナイフ。はい、お釣り」
店を出る。
道端の煉瓦の花壇の前にしゃがみ込んで、背丈の低いひまわりを植え替えているおばさんがいた。
「・・・」
「・・・?」
「き、綺麗な花ですね!この子たちはなんていう名前ですか?」
「ひまわり見たことないんね?」
「・・・・・」
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郵便ポストの下でうーちゃんが気持ちよさそうに伸びて寝ている。
アホな顔して。ちょっかいをだしてやろう。
両脇を抱えて顔を近づける。なんの抵抗もしない。食べることと寝ることしか考えていない愚かな猫だ。
「うーちゃん」
うーちゃんと目があう。
あれ?
急に涙が溢れてきた。どうしてだかわからない。なんだろう。わからない。
夢の中で誰か、大切な人と別れた気がする。
「誰だろう、思い出せないよ」
私は、もうこんな世界から退場してやろうと思っていた。でも、わたしは薄皮一枚も切れないペーパーナイフを買った。
うーちゃん
なんだかいつもより穏やかな目をしてる気がする。
「夢でも、白昼夢でも、私がいて、何かをみてる」
ぎゅっと抱きしめる。
キュ〜っと苦しそうな声を上げた。
「ごめんごめん」
「喉をなでてもらいたい」
「え?」
うーちゃんが話した?
気のせいだろう。でも、なんだかとても懐かしい。
私は歩きたくなった。
列島の離島の、さらに離島。
柄でもない山吹色のブラウスを着て、無理やり連れてきたうーちゃんと一緒に、遠浅の海に入った。
うーちゃんは猫なのに水を怖がらない。むたーっとした顔をして、温かい海に体をつけている。
「にゃー」
「うーちゃん、もうヒゲを引っ張ったりしないから、仲良くしよう」
「にゃあ〜」
「なんでお前を見ているだけなのに、涙が出てくるんだろうね」
私は傷だらけだけど、たった一つの世界を歩いている。
「にゃあ〜」
目を細めたうーちゃんは笑っているように見えた。
「へんな猫」
わたしはうーちゃんと友達になれるような白昼夢を、何かの拍子にみれないかと期待していた。
完
