見出し画像

映画『悲情城市』(1989)

『悲情城市』は1989年の台湾の映画。監督はホウ・シャオシェン(侯孝賢)。80年代から活躍している監督ですが、現在はアルツハイマー病を患い引退しているのだとか。

物語は第二次世界大戦後の台湾が舞台。
日本の統治下にあった台湾は、1945年の日本の敗戦により解放されて中国の領有となった。しかし今度は大陸から来た中国国民党と台湾人との間で軋轢が生じ、多くの人命が失われることになる。やがて大陸で中国共産党との内戦に敗れた中国国民党が台湾に渡り台北に臨時政府を1949年に樹立させる。
台湾に住む人々にとってみれば日本と中国に翻弄される日々で「犬が去ったら豚がきた」と言われる。

映画『悲情城市』は、この激動の時代を背景に台湾北部の港町である基隆に居を構える林家一族とその周囲の人物を描いている。特に誰かが主人公として描いているわけではない。

林家に人々に、まず老齢の父阿禄。林家は舟問屋らしいが、阿禄は日本人から「やくざ」と呼ばれていたようで裏社会にも顔がきいていたらしい。
長男の文雄は家業を継いでいる。腹巻姿でいることが多い。
次男の文龍は戦時中にルソン島へ軍医として向かったが、その後の消息が不明である。おそらく戦死したと思われる。
三男の文良は上海にいたが戦後台湾に戻ってきた。密輸のトラブルなどから重傷を負い終いには精神をおかしくしてしまう。
四男の文清は写真館を営んでいて実家とは離れて暮らしている。子供の頃の事故が原因で耳が聞こえない。
文清の友人とその妹が文清の元をしばしば訪ねてくる。

これらの人々をわりと淡々と描いている。たとえば日本刀ふりまわして喧嘩している場面であっても、カメラはかなり引いて、人物の格闘が画面の中で小さくなるように撮っている。

四男のトニー・レオンが比較的物語の中心に位置しているけれども、彼は耳が聞こえないし、言葉を発することがない。
皆が政治的な話題で盛り上がっていても文清には分からない。
時代から一歩引いた人物がいることで、カメラも人物に近づき過ぎないでいるのかもしれない。

それにしても台湾の風景は、むかしの日本の地方の風景といっても通じそうだ。
いまや台湾北部の代表的な観光地である九份も登場する。昨今の同地の写真を見ると綺麗ではあるが賑やかすぎる。
まだそれほどガチャガチャしていない、今から思えば鄙びてるくらいの九份の風景のほうが、惹かれるものがある。

激動の時代を背景にしているが、いろいろなところでド派手なもの、あざといものは排除されている。
ノスタルジックな音楽が心地良い。音楽には日本の立川直樹が参加している。偶然にも先に見た『マルサの女』では音楽プロデューサーとしてクレジットされていた。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集