氷抜きで、と君は言った|(後味悪い短編)#せりふ三題噺
「やるならいまだよ!」
そんな言葉を背中に受け、呑気に葉桜の下で眠り込んでいるターゲットの顔にめがけて、少しぬるくなったアイスコーヒーをぶち撒ける。
「前にやられた仕返しだ!」
完璧な仕事だった。
奴はコンビニで反刻前に買った、氷が溶け、透明な層が混じり合った黒い液体を浴び、びっくりした顔で飛び起きた。
背伸びをしたくて買った、飲みきれなかった濃い目のアイスコーヒーが手に余っていた。
それを見たあいつは、俺の手にあるアイスコーヒーを奪い取ろうと戯れあってきた。結局三人で、残りのコーヒーを浴びることになった。
あの時の苦さがいまでも忘れられない。
葉桜を見るたびに、親の都合で引越していった悪友を今でも思い出す。
実はもう少し大人になるまで、
コーヒーをブラックで飲めなかった。
苦味の良さなんてわからなかった。
◆
地元の友人と公園で久しぶりに会った。
少し暑さも感じだし、コンビニで飲み物を買う。
「あいつ、引越し先でイジメられてたらしい。
うちでふざけてばかりいたから、なんて言われてたらしいよ」
それを聞いたのは、引越ししてから
数年後だったそうだ。
あの頃、ふざけていたのは
俺たち二人だけだったんだろうか。
「お父さん、これ」
葉桜の下に残った茶色く汚れた桜の花びらを
娘が摘まみ上げる。
手のひらに引っ掻き傷があった。
そんな娘の小さなの手を引きながら、ぬるい、混ざり切っていないアイスミルクティーを飲んだ。
▼今週のお題
■セリフ
「やるなら今だよ」
■三題
・アイスコーヒー
・葉桜
・昼寝
