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Baby blue eyes |(ホラー短編)#せりふ三題噺

私は、世界のいろいろな風習や逸話を集めている。
ネモフィラが咲き誇る街として有名なある地方にやってきた。
そのときの記録を紹介しよう。
これは、私が北アメリカのある地域に観光にいったときの話だが、うまく言葉にできず、記録として残せていない。

その街は、街の創設者が中心となり、街の周辺にネモフィラを育てていた。大変綺麗な場所であるだけでなく、その街の住人にも注目が集まっていた。ある世代から、美しく青い目をした子供しかいないのだ。

街の創設者は、その地域でも大変な資産家であり、慈善事業家でもあった。

創業者の名前を仮にA氏としよう。

もともとA氏は、この地にフランス系の移民として移り住んできた一族の出身だったそうだ。

この地域で一大アグリビジネスを展開していた資産家の一家がいた。資産家には娘がおり、働き者で優秀だったAを見初めた。

A氏と資産家の娘は結ばれ、婚姻のお祝いとしてネモフィラを街に植えることにしたのが、全てのはじまりだという。

🌼 青い丘の街 観光ガイド
— Baby Blue Eyes Town —

ようこそ、青い丘の街へ。


私たちの街は、春になると一面がネモフィラの青に染まります。
“Baby blue eyes” と呼ばれるその花は、
訪れる人々に優しい風景を届けてくれます。

🌸 ネモフィラの花言葉
この街の象徴であるネモフィラには、
こんな素敵な花言葉があります。

・初恋
・どこでも成功
・可憐
・Baby blue eyes(赤ちゃんの青い瞳)
・あなたを許す

どの言葉も、この街の歴史と深く結びついています。

🏞️ 青い丘の由来
街の創設者が、 “とても大切な人”から贈られたネモフィラの種を この丘に植えたことが始まりです。以来、ネモフィラは毎年のように広がり、 街の繁栄とともに青い絨毯を広げてきました。

「どこでも成功」
ネモフィラはどんな土地でも根付き、 やがて一面を覆うほどに広がります。 この街の発展も、まるでその花のように。

👶 青い瞳の子どもたち
街では、青い瞳の子どもが多く生まれます。 “Baby blue eyes” の花言葉にちなんで、 街の宝として大切に育てられています。
春のネモフィラの季節には、 青い瞳の子どもたちが丘で遊ぶ姿が見られます。 まるで花が歩いているようだと、 観光客の方々にも人気です。

🌿 あなたを許す
ネモフィラは、 “あなたを許す”という優しい花言葉を持っています。  この街は、 訪れるすべての人を受け入れ、 優しく包み込む場所でありたいと願っています。

🌱 増え続ける青の風景
ネモフィラは、 地を這うように静かに広がっていきます。街もまた、 静かに、確実に、 青い色を増やし続けています。

青い瞳の丘/公式観光ガイド

地面を埋め尽くすほどの青い絨毯のようなネモフィラの丘。その丘からは街が見下ろせる。

私はネモフィラの写真や道行く人々、楽しそうに笑う青い目の子供たちの写真を熱心に撮っていた。

雨上がりにきたためか、青い目の子供たちは長靴を履いてネモフィラの丘を駆け回っていた。

風にのって、「……ほんとうにいたんだって!」
そんな子供の驚いたような声が聞こえてきたが、
誰に向けた言葉なのかは分からなかった。

ネモフィラの丘は、花の匂いが全くしない。
雨上がりであれば、花の匂いが立ち上ってきそうなものなのだが。

しかし、本当に花の造詣が可愛らしく、愛らしい。

愛らしい姿には似合わず、間引かないといけないほど、生命力がある花らしい。

丘のベンチで休んでいると、広い帽子のお婆さんが声をかけてきた。

「観光の人かい?この街は、昔うちの一族のAが作ったのよ」

青い目をしたお婆さんは、ネモフィラの花束を抱えながら静かに語り始めた。私は適当な相槌を打ちながら耳を傾ける。

「Aはね。うちの一族の中でも大変働き者で、
頭も良かった。資産家一族にも気に入られたのよ。
その一人娘に見初められて、街を任されるようになったのよ」

少し誇らしげにネモフィラの花を見ながら
一人で語り続ける。

「結婚の祝いに、“とても大切な人”からもらった種を植えたのよ。それが、この丘の始まり」

“とても大切な人” その言い方が、どこか引っかかった。どんな人なのか老婆に尋ねた。

「あの花はね、Aが一番大事にしとった人の……。
まあ、思い出みたいなものよ」

お婆さんはそれ以上言わなかった。
ただ、花束を抱きしめるようにして立ち去った。

その日の夕方、 古い教会の裏手で、杖をついた老人に出会った。あのお婆さんとは違い、老人の瞳は青ではなかった。

「A家の者と話したか。
あいつらは、よう“表の話”しかせん」

老人は、 誰かに聞かれていないか
確かめるように周囲を見回した。

「Aにはな……別の娘がおったんだよ。
わしの姪だ。
幼馴染でな、昔からAのことを誰より信じとった」

私は息を呑んだ。

「Aは、姪のことを“将来一緒になる”と言っていた。うちの家族も、そう信じていた。
だが……資産家の令嬢に見初められてな。
あっさり乗り換えたんだよ」

老人の声には、
“噂”ではなく“身内の痛み”が滲んでいた。

「しばらく身体を壊して、床に伏せていたんだが……。
それっきり前のようには戻らんかった。

結婚式の前日に、姪は一通の手紙と種を送った。
“許します。繁栄を願います。この花のように。
できれば、ネモフィラの種を植えて欲しい”とだけ書いてな。
あれは……あの子なりの決別だったんだろう」

老人は続けた。

「その後、あの家の”お嬢様”との間に子供が産まれては、
はじめの春を迎える頃になると、皆亡くなった。
十年以上も続いたんだよ。
わしらは……あの子の手紙のせいじゃないかと、
ずっと胸の奥で思っとった」

老人は、
長年押し殺してきた感情を吐き出すように言った。

「青い目をした子供が産まれてから、
あの一族は繁栄を取り戻した。
まるで……何かを待っていたようにな」

老人の瞳は、怨念ではなく、
身内を失った者の深い悲しみを宿していた。

宿に戻る途中、街外れの古い屋敷の前で、別の老人に声をかけられた。
実はこの老人は、私に話をしたいとコンタクトをとってきた人物だった。A氏の使用人として仕えていた人物だった。

老人は胸元から、古びた封筒を取り出した。

紙は黄ばみ、端は擦り切れ、
ところどころに茶色い染みがあった。

「これ……あの青い目の娘がいなくなる前に託された手紙だ。本当はA氏に渡すつもりだった。
けどな……封が破れていて……。
つい、先に読んでしまったんだ」

老人の手は震えていた。

「中には……こう書いてあった」

老人は、声を絞り出すように言った。

改めて許します。
貴方の一族に繁栄あれ。

叶うなら、この種をまた植えて欲しい。
子孫を増やして、間引く必要があるくらいに。

私は、貴方と同じ青い目をした子が見たかった。

私は息を呑んだ。

老人は続けた。

「これはA氏の結婚式の前にあの娘から
預かった手紙のもう一通だ。
A氏と令嬢の間に子供が産まれたときに
種と一緒に渡すように頼まれていた。

あの子の……最後の願いだったんだ。
いや……呪いだったのかもしれん」

そう言うと、被っていた帽子を強く握りしめた。

「わしは……怖くなって伝えられなかった。
せめて……最後に誰かに伝えんと……」

老人は、夜の街からネモフィラの丘を見つめた。
風は吹いていないのに、花が揺れていた。

老人は、帽子を握りしめたまま、
言葉を探すようにゆっくりと話し始めた。

「……あの家ではな、
茶色い目の奥方と青い目の旦那様の間に
産まれた子は、何人も春を越せんかった。
茶色い目の子ばかりだった」

老人は、誰かに聞かれていないか確かめるように周囲を見回した。

「二十年ほど経った頃だ。
ふらっと、見知らぬ若い女が屋敷に雇われた。
どこから来たのか、誰も知らん。
……旦那様は、すぐにその女に近づいた」

老人は視線を落とした。

「同じ頃、奥方にも子ができたと聞かされた。
そして……その若い女にも、子ができたと
わしは旦那様から打ち明けられた。
わしは、その女の世話係を任されていたからな」

老人は、苦い記憶を噛みしめるように続けた。

「奥方は、そのことを知らんかった。
子どもが生まれる日が、たまたま重なった」

老人は、ゆっくりと顔を上げた。

「先に産まれたのは、使用人の女のほうだった。
青い目をした、元気な女の子だった。
……奥方のほうは、茶色い目の子だったが、
生まれたときには、もう息をしていなかった」

老人は、帽子を握る手に力を込めた。

「奥方は、何度も子を失っていた。
もう、耐えきれん状態だった。
その騒ぎの間に……使用人の女は、
青い目の子を置いて姿を消した」

老人は深く息を吐いた。

「旦那様は……
その青い目の子を“自分と奥方の子だ”と、
奥方に嘘をついた。
奥方は、信じるしかなかったんだ」

そして、老人は私を見つめた。

「わしは怖くなった。
あの若い女は……
あの時の“あの娘”に、どこか似ていたからな」

老人は、そこで一度言葉を切った。

その沈黙が、語られなかった“何か”を
物語っていた。

翌朝、私はもう一度ネモフィラの丘へ向かった。
昨日と同じように、風は吹いていないのに小さな花が揺れていた。

観光客の姿は少なく、
丘の奥のほうは静まり返っていた。

写真を撮ろうと歩いていると、
ふと、足元の“違和感”に気づいた。

そこだけ、 ネモフィラが異様に密集していた。
まるで、地面の下から押し上げられるように。

しゃがんでよく見ると、
土がわずかに盛り上がっている。

しかし、墓標らしいものは何もない。

ただ――
骨のような石の表面に
掠れた文字が刻まれていた。

風雨に削られ、 ほとんど読めない。

だが、 辛うじて二つの苗字だけが残っていた。

A氏の苗字
そして、
昨日老人が口にした“幼馴染の娘”の苗字

私は息を呑んだ。

誰も墓だと言わない。
誰も墓として扱わない。
しかし、確かに“そこにある”。

ネモフィラは、
その石を覆い隠すように咲き誇っていた。

まるで、
誰にも見つけられたくないものを守るように。

私は無言でその場を立ち去ろうとした。
ふと身を刺すような幾つもの視線を
足元から感じた。

 ―茶色や青色の視線を


#せりふ三題噺
#ほんとにいたんだって
#長靴ネモフィラ骨

■セリフ
「ほんとにいたんだって!」
■三題
・長靴
・ネモフィラ
・骨

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