夜明けの地下鉄で、血だらけの僕が、号泣する友人を慰めた話
10年以上前、某国に語学留学していた。
当時、いわゆる「ネオナチ」と呼ばれる白人至上主義グループがたむろしている地域がちらほらあり、決して治安の良い方ではなかった。
日本以外の国では当たり前かもしれないけど、夜は基本、出歩くのは危険。
特にアジア人はうろうろしてると目立つので、極力ひとり行動は避けていた。
しかし、そうはいっても若い時分である。遊びたい盛りだ。
寮をこっそり抜け出して、クラブに通った時期があった。
正直、そこまでクラブという場所は好きではなかったけど、それでも見知らぬ土地で夜中に遊んでいるという背徳感があった。
クラブハウスの中は、タバコの煙と人いきれでムッとしており、眼がチカチカする照明に、スピーカからは腹に響く音楽が流れていた。
その日はなんだかいつもと空気が違った。
これから何かが起こりそうな、不穏な空気が漂っていた。
誰かの叫び声が聞こえて、場内に緊張感が走った。
そのうち、ところどころで口論のような怒声が飛び交うようになり、それはやがて大きな喧嘩になった。
若者同士が激しく取っ組み合い、誰かが投げた椅子やらなんやらが宙を舞っていた。
心配した従業員のひとりが、「お前らは見つかると危ないから隠れとけ」とこっそり目立たない場所に匿ってくれた。
ここは危険、と判断して、しばらくしてそのクラブを抜け出し、寮に帰ることにした。
外はもう、始発の時間だった。
いそいそと地下鉄の駅の中を歩いていると、地元の不良グループみたいなやつらになんか声をかけられた。
差別用語だったと思う。
シカトしてすたすた歩いてると、被っていたニットキャップをはぎ取られた。
やばい、と思っていると、後ろから、ものすごい衝撃が。
横で見ていた友人によると、思いっきり頭を蹴られたらしい。
後ろから思いっきり頭蹴られるとどうなるか知ってる?
一瞬、何が起こったかわからなかった。
いきなり衝撃が来て、床に倒れて。
立ち上がろうとしたら、頭がグワングワン揺れて、まっすぐ立てない。
口の中が気持ち悪かったんで、地下鉄の駅の床にペッて唾を吐いた。
血が床にビシャッと広がった。
そんときの気持ち、今でも覚えてる。
「これ、なんか映画の喧嘩のワンシーンみたいやな…」
とにかく足がふらついて、頭が揺れて真っすぐ立てない。
口からは血がダラダラ。隣の友人はドン引き。ちょっと泣いてる。
とにかく、逃げるしかない。
後ろから聞こえる罵声を振り切って、走って逃げた。
後のことはあんまり覚えていないけど、蹴られてない方の、僕の隣にいた友人の方がなぜか号泣していて、血だらけの顔でそいつをずっと慰めてた。
なんでやねん。逆やろ。
人ってピンチになると意外と冷静で、「この顔のこと、先生や寮の人間になんて説明しよっかな~」なんてことをぼんやり考えてた。
ベタに、階段で転んだ、ということにしておいた。
今でも後悔していることがある。
あんなゴッツイ、地元のヤンキー集団にどうやったって勝てっこなかったけど、これだけ言ってやればよかった。
「試してみるか?本物の、日本のカラテってやつを…」(空手未経験)
結論。
人は、ノーガードで頭を蹴られると、倒れて頭がグワングワンして膝がぐらぐらになる。あと、血とかたくさん出る。
みなさん、外国に行く際は十分ご注意を…。
あと、蹴られるにしても、きちんとガードしよう。
ボコられニキより。
※本記事は個人的な体験談をもとにしたエッセイであり、暴力や差別を肯定・助長する意図は一切ありません。
