岸田総理へ。「貯蓄から投資へ」の価値とは。 (リバイバル版)
「貯蓄から投資へ」というのは手段である。目的は、各家庭の金融資産を増やすこと。
では、「貯蓄から投資へ」を進めると、金融資産は増えるのか?
投資はリターンはあるが、リスクもある。最悪ゼロ、さらにはマイナスになる可能性もある。退職金を投資のプロの人の助言に従って運用して、大きく減らしてしまったという話を聞くことがある。一方、S&P 500を昔から持っていてGAFAM*のおかげで大もうけしたという話をきくこともある。
何を信じたらいいのか?
こういう場合は、個別具体的な逸話に引きずられることは得策ではない。視座を上げ、全体の視点からみるのが吉である。
ここでは、経済協力開発機構(OECD)「Household financial assets」のデータを元に、世界の過去25年間の事実がどうだったかということを分析し、岸田政権の目玉政策「貯蓄から投資へ」の価値について考察する。
※IT企業の雄である5社(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の頭文字を取った呼び名のこと
金融資産と可処分所得
ここで『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』風に、いきなりクイズを出す。
『日本の一家計あたりの家計の金融資産額は、1996年と2020年の25年間で増えているか?』
A: No マイナス
B: Yes 10%~50%の増加
C: Yes 200%以上の増加
まずは、1996年ごろ、あなたが何をやっていたかを思い返してもらいたい。
このころはバブリーな時代が終わりをつげ、就職氷河期であり、就活生は大変な思いをしていた時代である。少年の間ではポケモンが流行り、大人も子どももたまごっちをやり、10~20代の女子からは安室奈美恵さんを真似たアムラーが出現した。長嶋監督が「メイクドラマ」を成し遂げ、有森裕子さんが「自分で自分を褒めたい」とマラソンの完走後に率直な感想を述べたりしていた。
振り返ってみると、いまとそこまで変わっていない気がする。実際この25年間、物価はほぼ横ばいである。そんな中、家計の金融資産は一体どうなったのか?
答えは、『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』を読んだことがある人なら、「こういう問題の場合、あり得ない選択肢が答えだから、Cだ!」と勘繰りしたかもしれない。
鋭い! あなたのお考えのとおりである。答えは、C。なんと日本の家計の金融資産額は、この25年間で2.5倍(年率の成長率+3.9%)になっている。おーすごい!
だが「これって、単純に所得が増えたからじゃないの?」と考える読者が、おそらく全体の60%くらいはいると思う。それでは、ここで第2問。
『日本の一家計あたりの可処分所得(自由に使えるお金)は、1996年と2020年の25年間で増えているか?』
A: No 200%以上の減少
B: No 10%~50%の減少
C: Yes 10%以上の増加
ここでAを選んだ人。あなたはファクトフルネスの読み過ぎかもしれない。実際の世の中は、そこまで劇的ではない。答えは、Cである。
この25年間で可処分所得は、1.9倍(年率の成長率+2.8%)になっており、それが金融資産の伸びの原動力になっていると推察される。正に、あなたのお考えのとおりである。
それでは、世界はどうなっているのか?
可処分所得の伸びと金融資産の伸びには、かなりくっきりとした正の相関関係が見られる。近似線を引くと、傾きが1.7であり、この25年間、可処分所得の伸びは金融資産の伸びに1.7倍のレバレッジをかけてきた。

その中でわが日本はどうかというと、残念ながら金融資産の年率の伸び率は経済協力開発機構(以下:OECD)諸国の中で最低であった。25年で2.5倍(年率の成長率+3.9%)になってすごいと思っていたが、他国はもっと伸びていた。かつ、可処分所得の伸びの金融資産の伸びに対するレバレッジが1.4倍と、レバレッジも効いていない。
一方、レバレッジが2.3倍と一番高い国がスウェーデンである。日本とスウェーデンの間には、どんな違いがあるのだろうか?

グラフを見ると、その違いは明らかである。日本はこの25年間、金融資産の内訳がほとんど変化していない。一方スウェーデンは、現金預金が減り、その分、株式・投資信託の比率が増えている。正に「貯蓄から投資へ」が実現されている。その果実はレバレッジ効果として、可処分所得の伸びに対する金融資産の伸びの大きさに明確にあらわれている。
金融資産方程式
こう見ていくとどうも、金融資産は可処分所得と、資産の内訳として何をどういう比率で持っているかによって説明できるのではないか、という仮説が自然と湧き上がる。
過去25年間の全データを分析し、これを中学1年生でもわかるように数式化したのがこちらである。
金融資産 = - 62,931 + 5 × 可処分所得 + 9,136 × 投資好き指数*
* 投資好き指数 = 株式・投資信託の金融資産に対する割合 ÷ 現金預金の金融資産に対する割合
・OECD “Household financial assets”のデータを元に導き出した、家計の金融資産額を目的変数とした重回帰式である。
・説明変数は可処分所得と金融資産の内訳のデータを使用し、最も精度が高かった式が上記になる。
・修正済み決定係数が77.4%で、全体の77.4%を説明できる。
・可処分所得と投資好き指数のP値はそれぞれ0.0と統計的に有意である。
この単純な式で、OECD諸国過去25年間のデータの77.4%の説明ができる。
これよりわかるのは、まずは「稼いでいる人のほうが金融資産が多い」ということ。だが、これは当たりまえである。
次に、「投資好きのほうが金融資産が多い」ということ。これは大変重要な結果であると考える。投資はリターンがあるが、当然リスクもあり、最悪すべてを失うこともあり得る。これが貯金好きな人が投資を嫌う主たる理由である。
過去25年間を見て、そういった投資のリスクの結果も踏まえ、投資好きの人のほうが金融資産を多く持っている、というこの事実は、経済的自立のための第一歩目の知識として大切にしてほしい。
