雨宿りのくに #シロクマ文芸部 お題【雨宿り】
雨宿りに該当する言葉が、マティウムの国には無いらしい。
「雨は降らないの?」
「逆です。基本ずっと雨が降っています。」
「でも、流石に土砂降りの日は雨宿りしない?」
私は窓を指差した。雨が屋根や窓にバシバシ当たる音がする。少しの雨では傘をさす習慣がない国もあるとは聞いたことがあったが、流石に今日のような日は雨宿りはするだろう。
「実は、私たちの国は雨があまりにも多いので、雨に当たる方が快適に過ごせる体のしくみになっているんですよ。だから、今日の天気なら私の国の人たちはピクニックに出かけます。学校なら運動会もいいですね。」
「うそー!信じられない!」
偏頭痛持ちの私には信じられない世界だ。私のオーバーリアクションに研究者心がくすぐられたのか、マティウムは嬉しそうに続ける。
「でもその代わり、晴れの日が苦手ですね。晴れ予報が出たら、私たちはほぼ皆傘を持って行きます。ああ、でも雨傘を持つ人も増えていますね。雨に含まれる一部の成分が美容に良くないとかで。」
「雨と晴れが逆なだけで意外と一緒なんだね。」
「そうですね。そういえば、雨宿りはないですが、晴れ宿りみたいな言葉はありますね。」
「じゃあ、マティウムの国の人たちは晴れの日はなるべく家にいるんだ。」
「そうですね。まあ仕事で、たいがい外に出なくてはいけないですが‥」
マティウムの顔が曇った。晴れの日は憂鬱らしい。
「雨にあたってきなよ。今。」
「そうしたいですが、日本ではヘンタイですよ。ハルコ。」
マティウムが微笑んだ。
「ヘンタイで思い出しましたが、晴れ宿りを言い訳に意中の人を部屋に誘う所なんかも一緒ですね。日本でも、雨宿りを口実にホテルに誘うなんて話を聞いたことがありますが。」
早口で話しながら耳が赤くなっている。
「そ、そうなんだね。物知りだね、マティウムは。」
真面目なマティウムからいきなり俗っぽい言葉が出てきたことにドキッとした。
「じゃあ、なんで今日雨宿りしようって言ったの?」
「ハルコが風邪をひくからですよ。」
マティウムが雨戸を閉めると、雨音が弱くなった。
