小説風 羽子板の存在価値

僕の名は松毛 佐羽まつけ さばね。東京近郊のある町に住む高校3年生だ。今日は12月17日からの浅草の羽子板市に行こうと、久々に東京を訪れた。まあ、羽子板をするわけじゃないが。この雰囲気がなんとなく好きなんだよ。
子供の頃に正月に羽子板をやった、そんなかすかな記憶が自分をここに向かわせたのかもしれない。女の兄弟はいないが、自分の中に残された遺伝子の中に羽子板をした記憶が残ってる、そんな感じなのだ。
なので、羽子板なんてその小学校時代からやった事なんてないが、毎年この時期には、何かを探しにここに向かってしまうんだ。

ぶらぶらと大通りに入って周りにある商品を見ながら歩いてると、ふと後ろから声をかけられる。
振り向くと、中2の時に東京に転校した、幼馴染の藤宮 麻里子ふじのみや まりこだった。数年会ってないが良くも悪くも変わってないのですぐに気付いた。まあ、あっちもそうなんだろう。
「久しぶりじゃん。まさかこんなとこで佐羽君に会えるなんてね」
「神様の思し召しかもね」
「スベる冗談も変わってない!」
久々なのに軽く話せるのは幼馴染だからか。
「参拝ですか?あ、そんなわけないか。佐羽君、無神論者だし」
くすくす笑う。この笑顔も変わってないな。
「もちろん、例の『羽子板』だよね。私も何回か付き合わされましたわ」
「そうだね、でも昔一回だけ子供用の安いの買ってやったじゃん」
「ああ、あったよね。『マリーにはこんなんで十分だから』とか言ってさ、このセリフ今も覚えてるからね」
「悪い悪い。大きくなったらいいのをプレゼントしたかったんだけどさ。マリー転校しちゃったからさ」
「そうなんだ。怪しいけど…。あ、じゃあさ、今プレゼントしてよ。今すぐに🥰」
何年も会ってないのに再会早々これかよ。まあ、彼女らしいし。安い子供用あげただけで終わったのを実は後悔してたんでちょうどいいか。
「じゃあさ、再会の印にいい羽子板プレゼントするよ」
「ホント?」
なんか目が少女漫画の様にキラキラしてる。まあいいか。

二人して羽子板市の方に向かう。いつも見るだけで買わなかったからいいか。その数年分と思えば安いもんだ。
「手でもつなごっか?」
悪戯っぽく空いてる左手を伸ばしてくるが。
「いらねーよ。恋人じゃないんだし恥ずかしいじゃん」
「う~ん・・・。まあ、そだよね」
手が引っ込んでからちょっともったいなかったかなと後悔するが。

羽子板市到着。いろんな羽子板が並んでて目移りするな。
「家近いっちゃ近いのに、会う機会もなかったよねえ」
「東京の浅草の近くなの?」
「そうだな、この近く。前の家からそんな遠くはないけど、わざわざ帰って見に行くこともないからね。昔の家もないし。
そんなことよりさ、選びますか。好きなの選んでいいんだよね」
店の絵師の人が客の似顔絵を描いて羽子板にしてくれるらしい。これもいいかも。大谷の羽子板よりはご利益がありそうだ。んっ?無神論者だっけか。最も一般人のマリーの羽子板よりは、赤の他人の大谷翔平の羽子板の方がご利益だけならあるかもしれないな。マリーの顔を横目で見て反応を探る。自分の中のプローブがピピっと反応する。
「ほしいの?これにする??」
「え⁈」
値段を見る。ちょっと高いかも。見るだけのつもりで来てたからなあ。マリーも値段を見て遠慮そうに肩をすくめるが。
でも。それでも。
「これでいいよね。8年くらい待たせたんだし、利息付けて返さないとね」
僕は羽子板市の絵師の人に声をかける。
「あの。この子の似顔絵でお願いできますか」

それなりにお高い買い物だったがまあいいか。もうすぐ正月だし。バイトも頑張らないと。そんなことよりも目の前にいるマリーの笑顔が嬉しい。
顔を紅潮させて笑顔で羽子板をこっちに向けてポーズを決めるマリーの姿が眩しい。まさに映えている。家に帰ったら待ち受けにしないとな。
久しぶりの幼なじみとの再会だがいいムードだ。気分良くしていると後ろからまた声をかけられる。
デジャブかよ‼

振り返ると高級そうな着物を着た背の高い大柄で派手ではあるけど顔立ちは僕らくらいかもしれない。そんな女性がこれも高級そうな羽子板を持って立っている。
「ちょっと待ったあ~‼‼」
女性が何か言おうとした瞬間、先手を取ってマリーが叫んだ。女は不服そうな顔で、
「先に言わないでくださる⁈」
不服そうだ。多分このセリフを言いたかったんだろうが、マリーに先手を取られてしまったって所か。
マリーに向けて言う。
「知り合い?」
マリーは黙ってうなずく。
女は持っていたバッグから一枚の名刺を取り出す。
「私こういうものですわ。お見知りおきを」

『〇〇株式会社 社長令嬢・朝比奈順子』

高校生なんで名刺をもらう機会なんてそうは無いが、〇〇株式会社と言えば結構な大手企業だ。しかも社長? しかし『社長秘書』とかならともかく、『社長令嬢』という肩書の名刺はあまり聞かない気はするが。マリーの方を見て言う。
「知ってる子?『あさひなじゅんこ』さんだって」
「『じゅんこ』じゃなくて『じゅんし』」
「女なのに?」
「そうそう、ある意味で違う感じのキラキラネーム。親が金持ちでクレーマーのキラキラバカだからキラっちゃってるのよ」
「少女漫画やドラマ以外でこんな喋りの人、初めてみたよ」
「そこ、聞こえてますわよ!」
朝比奈の声が聞こえた。
朝比奈はつかつかとマリーに歩み寄るとマリーに向けて左手を差し出す。
「ハイ!握手よ」
マリーは黙って左手で握手すると朝比奈は元の位置に戻った。
「左手で握手って?」
「決闘の合図らしいよね。武器を利き腕の右手に隠し持ってるから、決闘の合図って意味らしいんだけど、私左利きなんですけど」
苦笑いして、
「で、どうする?決闘とか朝比奈らしいっちゃらしいけど」
僕は朝比奈に向きなおって聞いてみる。
「あの…、どうすれば?」
「あなたじゃなくて藤宮ふじのみやよ」
「で?『あさひなじゅんし』さん。どうすればよろしいのでしょうか?」
「じゃあ、あなたと勝負しませんこと。ちょうど今ここにある。この羽子板で!」
なんか言い方が芝居がかって腹が立つ。僕も朝比奈に言ってみた。
「でも高い羽子板だし・・・」
「羽子板なんて羽根をつくためにあるんじゃなくって?何のために羽子板がここにあるのかしらね」
言い分はもっともな気がしないでもない。
敵役 朝比奈 順子あさひな じゅんしいかにも昔風のライバルの悪役キャラだ。

朝比奈順子あさひなじゅんしの持っている羽子板。むちゃ高そうだ。自分のも頑張ったつもりだが、このヒトのは社長令嬢だけにもっと高い気がするぞ。んっ???値札がつけっぱなしだぞ。思わず値札を見る。29万8900円?高っ!しっかし高級かもしれないけど 値札つけっぱなしは俗っぽいぞ、この女。しかも最後の8900円が中途半端なスーパーの値引き感を感じさせるのは何故?
朝比奈はいきなり僕の方を向いて、
「8900円ならあなたのいつものお買い物の総額くらいじゃないの。それを俗は無いわよねえ。お値打ち価格じゃございませんことよ」
いや、読唇術かよ。

こうして何やかや言いつつも、浅草の羽子板市で買った、マリーの似顔絵入りの羽子板と金持ち朝比奈の超高級な羽子板で対戦する。
しかしマリーは、自分の顔が羽根で撃たれるのが嫌だと言って、僕に対戦を押し付ける。
こうして、僕、松毛佐羽と悪役キャラ女の朝比奈順子との羽子板対決が始まった。

「イテッ‼ 」
「やばっ‼」 
「ぎゃ~っ!死ぬ~‼殺す気!!!」


僕が撃ち返すたびに両手で目を覆いつつも実は隙間から覗くマリーの悲鳴。自分の顔面が羽子板の羽根にジャストミットされるたびに大悲鳴。一体どうしろと?朝比奈本人よりもこっちのが強敵な気がするぞ。
まともに撃ち返せないから羽子板の角の顔のない部分で打ち返さない限り、僕のポイントはみるみる減っていき、朝比奈順子の大量リード。僕の顔面には朝比奈の描く墨の印がどんどん増えてく。この人権令和の時代になんなんだよ!僕は一応はマリーの代役なんで負けてるマリーの不機嫌と悲鳴もヒートアップ。朝比奈は書道か絵画でもやってるのか、ビミョウに上手に墨を塗るのがむしろカンに触るぞ。

タイムアウトの際にマリーがちらりと朝比奈の方を見ながらぼやく、
「おーほっほっほ、とか言ってるのかしらね?」
いくらなんでも言わない気がするが、漫画のキャラじゃ無いんだし。

結果、2対15 3対15のストレート負け。

惨敗だったな。理由はあるっちゃあるが・・・
マリーが優しい声で言う
「全然、佐羽くんのせいじゃないよ!
「(まあ、そりゃそうだけど)」
「ほら、お金が有れば無敵だもん。佐羽くんのせいじゃ無く、朝比奈の金力よ。親が金持ちってだけで偉いとか思ってんじゃないよね」
そりゃ半分くらいはそうだけど真の敗因は別のところにある気がする。

30ポイント分の墨だらけの僕たちの前を勝者の朝比奈は意気揚々と去っていった。マリーが腹いせに思いっきりつけ返した5ポイント分の墨を顔面に付けながらも勝者の余裕か嬉しそうではある。ある意味大人ではあるな、朝比奈順子あさひなじゅんし。しかしこの女何しに来たんだよ。

「あの女何もんだよ」
浅草を墨だらけの顔で歩いて帰る罰ゲーム、まあ、隣にマリーがいるから良しとしようか。
「永遠のライバル…かな。向こうが勝手にそう思ってるだけなんだけど」
「あ、そうだ…近況の話全く聞いてないや。今何やってるの?」
「マンガの勉強中。でも難しい。マンガ描くのにモデルがいないから、その辺の有名人の写真見ながら、そっくりそのまま模写するんだけど、全く似ない。でも、それがいい。うまく有名人そのまま書いたら、あいつの顔パクってるんだろって言われるけど、全然似てないから新規のオリキャラ爆誕ってなるじゃん」
悪戯っぽく笑うが、それでいいのか?
「せっかく再会できたんだし、LINEでも交換しとく?連絡先わかんないからずっと会えなかったんだし…。いや、言い訳かな。近いし、こっちは住所知ってるから手紙ででも連絡したら良かったんだよね」
寂しそうに浅草駅のホームを見る。
「いや、いいよ。むしろお願い。時間ある時でも遊びに行こうよ」
「うん、ありがとう。そうだ。佐羽君のことマンガのモデルにしちゃおうかな」
「あまり面白い奴でもないけどね。それでよければ」
羽子板の縁で偶然にも再会できた二人だから、漫画にはならなくても、この縁を繋いでいきたいな。
「今日さ、12月17日だからさ…」
マリーが小さな声で言う。
「え?なんて」
「なんでもなーいよ。じゃ、また会おうね」
手を振りながら、大事そうに自分の似顔絵入りの羽子板を抱えて去っていくマリーが夕陽の中に見えなくなるまで、僕はずっと夕焼けを見つめていた。


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しょ~・モナー  【www( ´∀`)】 頑張ります。