コントロールできなかったあと、心は動く
駅のホームで、電車を待っていた。
隣の人の会話が、やけに耳に入る。
彼氏彼女なのか、どうやらケンカしているみたい。
「なんでそんな言い方するの?」
「いまさらそんなこと言うなよ」
少しだけ強い声に、思わず視線を向ける。
言われた彼女は、もう泣いていた。
なぜか、私まで泣きそうになる。
胸の奥が、きゅっと痛む。
ひどい。
そう思ったけど、もちろん口には出さない。
私はただの他人だから。
電車が来るアナウンスが流れて、
人の流れが、ゆっくり前に動く。
ふと、人前で話すの、苦手だな、と思う。
視線が集まるだけで、息が詰まりそうになるから。
ひどい言い方だったけど、
あんなふうに人前で感情を出せることが、少しだけうらやましい。
うまくやれたらいいのに。
自分の好きなように、全部。
恋も、仕事も、なにもかも。
でも、だいたいは思い通りにならない。
さっきの二人だって、きっと、
あんなふうに言いたくて言ったわけじゃない。
あんなにぶつかり合っていても、
今日の夜は、いつもより愛し合うのかもしれない。
コントロールできないことばかりだ。
それでも、
コントロールできなかったあとにだけ、
特別な気持ちが残ることがある。
電車が滑り込んできて、
大きな音が、すべてをかき消した。
さっきまでのざわつきも、
言葉にできない気持ちも、
ドアが閉まる頃には、もう遠くなっていた。
たぶん私は、
心を動かされたあとの、
この静けさが、好きなんだと思う。
月曜日からやっと辿り着いた金曜日の夜も、
最近連絡をくれない彼から、突然メッセージが来たときも、
いつも、心が動くのはそんな瞬間だ。
流れていく景色を見ながら、
そんなことを考えていた。
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