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ごめんが言えない

夫と喧嘩をして、三日が経った。

三日間、ほとんど会話をしていない。

「おはよう」も言わない。
「おやすみ」を言わない。

同じ家にいるのに、
まるですれ違う人のようだった。

話さなきゃと思う。
でも、何を言えばいいのかわからない。

夫は、間違っていなかった。
言っていることは正論だった。

私だって、
自分がしたことは間違っていないと思っている。

だから、
「ごめん」が出てこない。

きっと、
どちらかが謝れば終わるのだと思う。

でも、
先に言ったほうが負けるような気がして、
意地になっていた。

その夜。

夫と二人でリビングにいた。

テレビだけが、
何事もなかったようについている。

私はスマホを眺めるふりをしていた。

夫も黙っていた。

しばらくして、
夫が立ち上がった。

そして、
冷蔵庫を開けた。

「……プリン、食べる?」

思わず顔を上げた。

「……食べる」

夫は冷蔵庫からプリンを二つ出した。

一つを私の前に置いて、
自分も隣に座った。

会話はない。

ただ、
二人でプリンを食べた。

少しして夫が言った。

「これ、賞味期限今日だった」

「……ほんとだ」

「危なかったな」

「うん」

三日ぶりに聞いた夫の声は、
何も変わらなかった。

食べ終わった夫が、
小さく息を吐いた。

「……俺さ」

私は黙って夫を見た。

「謝るの、苦手なんだよね」

「……知ってる」

「でも」

夫は少しだけ笑った。

「仲悪いままなのは、もっと嫌だわ」

私は何も言えなかった。

正しいとか、
間違っているとか。

どっちが悪いとか。

そんなことより、

隣にいる人と
三日も話さないことのほうが、
ずっと寂しかった。

「……私も」

やっと声が出た。

「仲悪いの、嫌」

夫がこちらを見る。

そして、

「じゃあ、仲直りする?」

と聞いた。

私は頷く。

「……うん」

夫が差し出した手を、
私はそっと握った。

「……ごめん」

夫が言った。

「私も、ごめんなさい」

私は答えた。

どちらが悪かったのかは、
もうどうでもよかった。

ただ、

三日ぶりに触れた手が、
ちゃんと温かかった。

それだけで、
今夜は十分だった。

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