夕日が綺麗なのはホコリのおかげ
「知ってる?」
彼女は自転車を押しながら、夕焼けの空を見上げた。
「夕日が綺麗なのって、埃のおかげなんだって」
「へえ」
僕も空を見上げる。
西の空はオレンジ色。
雲の縁は光っていて、川まで赤く染まっていた。
「太陽の光が、空気中の細かい埃とか水蒸気で散らばるからなんだって」
「そうなんだ」
「だから、埃が多い日は夕日が綺麗らしいよ」
少しだけ夢がない気がした。
「でもさ」
僕は夕日を見ながら言う。
「もっと別な理由がよかった」
「例えば?」
「……夕日が照れてるから、とか」
彼女は少し首をかしげる。
「それが理由?」
「誰かの恋を見つけたら、赤くなる、とか」
彼女は黙った。
やばい。
言ってから恥ずかしくなる。
苦笑いしていると、彼女が立ち止まった。
「ねえ」
「ん?」
「私も思いついた」
夕日に照らされた横顔は、少し赤かった。
「あのね」
彼女が僕を見る。
「夕日が綺麗な理由」
少しうつむきながら言う。
「……好きな人と、見てるから」
風が吹いた。
川沿いを歩く人の声も、自転車の音も、全部遠くなる。
「それって……」
聞き返そうとした瞬間。
「鈍いなあ」
彼女は照れくさそうに笑って、自転車を押しながら歩き出した。
「私は今、告白したんだぞ」
その一言で、夕焼けより顔が熱くなる。
急いで彼女の隣に並ぶ。
「僕も」
「うん?」
「ずっと好きだった」
彼女は何も言わずに笑った。
夕日が綺麗なのは、空気中の埃のおかげだったのかもしれない。
でも僕は、隣で笑う彼女のおかげで、
世界がこんなにも綺麗だと知ったんだ。
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