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1デシリットルは100ミリリットル

「どうして単位ってさ、こんなにわかりにくいのかな」

テスト勉強中。

私は教科書を見ながら不満顔で言った。

「何があったの?」

向かいに座る彼が聞く。

「だってさ。1デシリットルは100ミリリットルだよ?」

「うん」

「なんで? 1なら1でいてほしいんだけど」

彼は少し考えてから言った。

「じゃあ覚え方を教えてあげるよ」

「そんな都合のいい覚え方ある?」

「あるよ」

彼は私のノートの端にさらさらと書いた。

『1つの大好きは、100個の好きかもから生まれる』

「なにそれ」

思わず笑っちゃう。

「1デシリットルは100ミリリットル」

「うん」

「1つの大好きは、100個の好きかも」

「意味わかんない」

「でも覚えたでしょ?」

確かに。

たぶん忘れない。

私は苦笑した。

「好きかもが100個も必要なんだ」

「大好きなんて、そのくらい特別だよ」

彼はそう言って笑った。

少しだけ沈黙。

私はノートの文字を見つめる。

そして少し迷ってから聞いた。

「ねえ」

「ん?」

「好きかもって、どうやって数えるの?」

彼は少し考えた。

「さあ」

「適当だなあ」

「でも」

彼はペンを回しながら続ける。

「会えると嬉しいとか」

「うん」

「目で探しちゃうとか」

「うん」

「その人のことばかり考えてるとか」

「……」

私は返事ができなかった。

全部、心当たりがあったから。

彼は何事もないように参考書をめくる。

「じゃあさ」

私は勇気を出した。

「大好きになるのって、100個目なの?」

彼の手が止まる。

夕日が横顔を照らしていた。

彼は少しだけ笑う。

「ほんとは、100個もいらないと思う」

「え?」

「たぶんね」

彼は私を見る。

「大好きって、1個目の好きかもで決まってるから」

心臓が大きく鳴った。

「……じゃあ、残りの99個は?」

彼は窓の外に目を向けた。

「気づくための確認作業」

その瞬間、顔が熱くなった。

彼は参考書に視線を戻す。

そして、まるで独り言みたいに言った。

「本当はさ」

「え?」

「100個集まってから好きになるんじゃないんだよ」

私は、息をのんだ。

彼はペンを回しながら続けた。

「好きになったあとで、99個見つけるんだ」

そして彼は小さく笑った。

「まあ、俺はもう見つけたけど」

「……え?」

「ほら、勉強しないと」

彼はそれ以上何も言わなかった。

私は問題集を開いたまま、一文字も頭に入ってこなかった。

その日の勉強内容はほとんど覚えていない。

でも、

1デシリットルは100ミリリットル。

それと、

大好きは、気づく前から始まっている。

その二つだけは、今でもちゃんと覚えている。



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