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傷つけてしまった方が、愛おしくなるのは

「痛っ」

彼女を抱き寄せようとしたとき、
指先が首元にあたった。

「ごめん、ちょっと見せて」

うっすら赤くなっている。

「大丈夫、もう痛くないから」

そう言って彼女は笑う。

違う。
大丈夫じゃないのは、こっちの方なんだ。

きれいに治るのか。
少し跡が残るのか。

そんなことばかり気になって、
胸が騒がしい。



小さい頃、転んだことがある。

膝から血が出ていた。

「だいじょうぶ、ひとりであるく」

母の差し出した手を振り払って、
そう言って、立ち上がった。

痛かった。

でも、それよりも
悔しかった。


アスファルトに、
自分の皮が落ちてる気がして、
必死に探した。


あのときの傷は、
いまでもうっすら残っている。

思い出すのは、痛みじゃない。

心配そうにしていた、母の顔だ。


それからは、
転ばないように歩いた。


不思議なもので、

跡が残っている右膝の方が、
なにもない左膝より、
少しだけ大切に思える。



彼女の首元を、もう一度見る。

さっきよりも、
少しだけ赤みが引いている。


たぶん、傷は残らない。

よかった。


それでも、

もし残ってしまったら、

僕の左膝みたいに、
ずっと大切に思えるのかな、なんて考えてた。



そのまま、

もう一度、彼女を抱き寄せた。

さっきよりも、
少しだけやさしく。

さっきよりも、
離さないように。


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