熱海の花火大会|花火が生活の一部になる街
「今日は花火大会ですね」
引っ越してきたばかりの頃、管理人さんにそう話しかけたことがある。
返ってきたのは、
「あっ、そうなのですね」
という、驚くほどあっさりした反応だった。
全国から観光客が押し寄せる観光地の花火大会なのに、地元の人にとってはごく当たり前の出来事らしい。
嫌っているわけではないようだけど。
ただ熱海では、花火は特別なイベントというより、日々の風景の一部として溶け込んでいるのだろう。
こういう街は、全国を見渡してもそう多くはないかもしれない。
熱海海上花火大会は、2026年は年間16回開催される。
春に。
夏に。
秋に。
そして冬にも。
季節の節目ごとに、夜空に大きな花が咲く。
「花火大会は夏のもの」
そう思い込んでいる人ほど、この頻度には驚かされるかもしれない。
旅行者にとっては、わざわざ日程を調整して足を運ぶ特別な催し。
けれど熱海に住んでいると、「あ、今日花火の日だったっけ」くらいの感覚になる。
それでも、友人が遊びに来るときは、少し準備する。
人気の飲食店は事前予約が安心なので、花火大会が始まる前の時間で予約をしておく。
とくに夏の開催日は、駅周辺や海沿いの人気店があっという間に満席になってしまう。
ふらっと行くと、「予約されましたか?」と聞かれることになる。
友人を招いたときは、人気の中華料理店を予約しておく。
料理をつまみながらビールで乾杯し、
「そろそろ行こうか」
の一言で腰を上げる。
これも熱海らしい過ごし方だと思う。
熱海の花火は、打ち上げ数の多さを競うタイプの大会ではない。
一回の開催時間は約20分。夏は25分。
打ち上げ数はおよそ3,000発から5,000発。
数だけを見れば、もっと大規模な花火大会は他にもたくさんある。
それでも熱海の花火は、全国的に見ても評価が高い。
その理由は、熱海湾という地形にある。
三方を山に囲まれた、すり鉢状の湾。
打ち上げられた花火の音がその斜面に反射し、ズドーンと響いてくるのだ。
腹の底まで揺さぶられるような、重く長い残響。ざんきょー♪
もはや「見る」というより「音を浴びる」に近い体験だ。
この迫力は、映像では伝わらない。
現地に足を運んで初めて実感できる、熱海ならではの魅力だ。
そして締めくくりを飾るのが、大空中ナイアガラ。
ドドドドドドドドド、、、
連発の花火が、夜空いっぱいに銀色の光で夜空を埋めつくし、おっ、昼間かと勘違いするような瞬間になる。
正面から見上げると、まるで巨大な光のカーテンが視界を埋め尽くすようだ。
熱海は観覧スポットと打ち上げ地点との距離が近いため、その迫力は想像を超えてくる。
「おおー、すげー」
そう口にした瞬間、周囲から自然と拍手が湧き上がる。
何度目にしても、このラストだけは鳥肌が立つ。
熱海のホテルや旅館に泊まるのもおすすめです。
夏の花火大会では、旅館組合に加盟する宿に泊まると、親水公園に設けられた宿泊者専用エリアから観覧できる。
海沿いの一等地なので、「一番の特等席が宿泊者限定なのか」と少し残念に思う人もいるかもしれない。
とはいえ、一般エリアからでも十分に楽しめる。
夏場でも、開始の1時間ほど前に行けば、比較的良い場所を確保できることがある。
秋や冬になると、さらに余裕がある。
30分前に着いても、悪くない場所で見られることは珍しくない。
実は、自宅マンションの屋上からでも花火を眺められる。
実際、屋上からの眺めも悪くはない。
ただ、一本の木がちょうど視界に入り込み、仕掛け花火の下のほうが隠れてしまうのが難点だ。
「どうせなら近くで見ようか」
結局、いつもそうなる。
仕掛け花火はやはり、あの音まで含めて、下から上まで全部楽しみたいものだと思う。
熱海の花火の本当の迫力は、近くまで足を運んでこそ味わえる。
花火大会が終わると、大勢の人が駅へと歩き出す。
浴衣姿の恋人たち。
子どもを連れた家族。
「きれいだったねえ」
そんな声があちこちから漏れ聞こえてくる。
私たちはその人波を横目に、家路につく。
親水公園から自宅マンションまでは、歩いて15分ほど。
途中、坂道になる。
昼間はこの坂を少し億劫に感じる。
けれど、花火帰りは、そこまで苦にならない。
夏場は缶チューハイ片手に花火を見ていることが多いので、ほんのりと酔いも回っているからかな。
「今日のナイアガラも良かったね」
「風がちょうどよく流れていたね。」
そんな会話をしながら歩いていると、坂道の存在すら忘れてしまう。
気づけば、もう自宅のエントランス。
実はこの帰り道の時間も、ひそかに気に入っている。
駅を目指す人たちは、これから電車に乗って帰路につく。
一方、私はそのまま家にたどり着ける。
「帰る場所が熱海にある」
そのことに、ちょっとした優越感を感じる瞬間だ。
マンションについたら、まずお風呂に直行する。
汗を流してさっぱりしたところで、冷蔵庫を開ける。
もう一杯だけ。
これが、花火大会の夜の決まった過ごし方になっている。
ベランダに出ると、街はすっかり静けさを取り戻している。
遠くでは、まだ駅で電車を待っている人たちがいるはずだ。
その余韻に浸りながら、缶酎ハイをゆっくり傾ける。
旅行として訪れるなら、花火大会は帰路につくまでが一つのイベントだ。
けれど熱海で暮らしていると、家に帰り、お風呂に入り、もう一杯飲むところまでがひと続きの日常になる。
花火を目当てに熱海を訪れる人は数え切れないほどいる。
実際にここで暮らしてみると、花火は「見に行くもの」から「暮らしの中にあるもの」へと変わっていく。
私は、そんな贅沢もとても気に入っている。
💡熱海海上花火大会2026年度(令和8年度)
2026年6月に追加開催が発表され、2027年2月21日開催分も2026年度の開催として含まれています。
4月:26日(日)
5月:24日(日)
7月:20日(月・祝)、26日(日)
8月:5日(水)、9日(日)、18日(火)、24日(月)
9月:13日(日)
10月:12日(月・祝)、25日(日)
11月:8日(日)、23日(月・祝)
12月:6日(日)、25日(金)
2027年2月:21日(日)※2026年度の追加開催
時間は通常20:20~20:40、7・8月のみ20:15~20:40です。
雨天でも開催されます。
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