土壌の秘密 国立科学博物館
日本の科学博物館を牽引する国立科学博物館。日本の近代化の歴史から、生態系に至るまで、ありとあらゆる展示品がところ狭しと並んでいる。建物は日本館と地球館の2つに分かれていて、地球館は「地球生命史と人類」、日本館は「日本列島の自然と私たち」をテーマに構成されている。丸一日いても見きれないほどのボリュームだ。今回はその中でも、普段あまり注目されない「土壌」にフォーカスして見ていく。何気なく踏みしめている足元に、どれだけの情報が詰まっているのかを辿っていく。

土とはなんだろうか?
日本館3階南翼、「日本列島の素顔」。ここでは南北に長い日本列島の自然環境の違いが展示されている。その一角に、各地から採取された土壌断面がずらりと並んでいる。横一列に並べて見ると、同じ“土”であるはずなのに、色も質感もまったく違う。この瞬間、「土はただの土ではない」ということに気づかされる。
では、そもそも土とは何なのか。土壌とは、鉱物、有機物、生物などが混ざり合ってできた地表の物質である。そしてその形成には、母材・気候・地形・生物・時間という5つの要因が関わっている。つまり、土はその場所の環境そのものを反映した結果なのだ。
土壌にはさまざまな分類方法があるが、日本の包括的土壌分類では大きく10種類に分けられる。ここでは日本列島を南から北へと辿りながら、その違いを見ていく。
造形土:人の影響を非常に強く受けた土壌
有機質土:湿地に分布する植物由来の土壌
ポドゾル:寒冷な気候下で発達する土壌
黒ボク土:火山灰由来の保水性や透水性がよい土壌
暗褐色土:有機物が少なく粘土含量が高い
低地土:河川周辺に分布する肥沃な土壌
赤黄色土:有機物が少なく強酸性を示す
停滞水成土:保肥力は高いが 排水性や透水性が不良の傾向
褐色森林土:山地や丘陵地に広く分布する土壌
未成熟土:保肥力は低いが排水性はよい土壌

様々な種類の土壌により、日本は構成されていることがわかる
亜熱帯の赤い土たち
まずは南、琉球列島から。沖縄の土といえば赤いイメージを持つ人が多いだろう。この地域の土壌は主に「赤黄色土」で構成されている。この赤い色の正体は、鉄である。もともと土に含まれている鉄分が、高温多湿な環境で雨水と反応し酸化することで、赤い色へと変化する。つまり沖縄の土の色は「土の色」ではなく、「鉄が錆びた色」なのだ。
琉球列島の土壌はさらに3つに分けられる。
島尻マージ(石灰岩由来・弱アルカリ性・粘土質)
ジャーガル(泥灰岩由来・灰色・高保水)
国頭マージ(花崗岩由来・強酸性)


島尻マージは、沖縄県本島中南部・本部半島・宮古諸島・八重山諸島・南北大東島などに分布し、サトウキビやサツマイモの栽培に適した土壌だ。宮古島は石垣島のような山地がほとんどなく、河川による水の供給が限られるため、地下に水を貯める「地下ダム」などの仕組みを用いて農業を行っている。実際に訪れたときも、平坦な地形の中に広がるサトウキビ畑と、その裏で支えられている水利用の工夫が非常に印象的だった。

国頭マージは沖縄県本島中北部・石垣島・久米島などに広く分布する酸性土壌である。この土壌はパイナップルなどの栽培に適している一方で、降雨時に流出しやすく、赤土問題を引き起こすことでも知られている。2024年に石垣島を訪れた際、沖縄本島とは植生や景観の印象が少し異なると感じたが、それはこうした土壌の違いも一因だったのかもしれない。

温暖な森を支える褐色の土たち
次に西日本へと移る。この地域にはカシなどの常緑広葉樹からなる照葉樹林が広がり、その足元には褐色森林土が分布する。褐色森林土は火山灰の影響が少ない地域に広がる土壌で、日本の約30%を占める代表的な土の一つだ。畑や果樹園として利用されることも多い。




2026年に琵琶湖博物館とびわこベースを訪れた際、琵琶湖大橋を挟んで東西の町を歩いた。東側の草津や守山は、平坦な土地が広がり、水田が一面に続いている。一方で西側はすぐに山地となり、落葉樹林の下に褐色森林土が広がっていた。同じ湖を挟んでいるにもかかわらず、片側は土が堆積してできた平野、もう片側は山地という対照的な環境になっている。こうして実際に歩いてみると、土壌の違いがそのまま景観や土地利用の違いとして現れていることがよく分かる。

展示の中にある赤黄色土のうち、秋吉台の土がある。秋吉台は石灰岩が雨水で溶けてできた、日本最大のカルスト地形でも有名な場所だ。土壌ができにくい一方、溶け残った粘土や鉄分が局所的にたまり独特の土が形成される。
秋吉台の赤黄色土は、現在の日本の温暖湿潤な気候のもとでできる一般的な土壌で、「今の環境」によるものだ。一方で、この地域の特徴をよりよく示すのが暗赤色土で、石灰岩が長い時間をかけて強く風化し、鉄分が濃縮してできた「古い環境」の土壌だ。秋吉台ではこの新しい土と古い土が混在し、時間の異なる土壌が共存している。
同様の暗赤色土は、2025年に訪問した佐賀県唐津周辺でも見られた。唐津では、玄武岩などの火山岩の風化によって鉄分が濃縮し、赤色の強い土壌が形成されている。

冷温な土地の火山が育てた黒い土たち
さらに北へ進むと、ブナ林などの落葉広葉樹林が広がる冷温帯に入る。ここでは主に褐色森林土に加えて、黒ボク土が重要な役割を果たす。黒ボク土は火山灰由来の土壌で、有機物が蓄積することで黒い色をしている。保水性・透水性に優れ、日本の農業を支えてきた土壌でもある。その分布は国土の約31%に達するが、世界的には非常に稀で、全陸域の1%未満しか存在しない。




同じ黒ボク土でも水分や母材といった生育環境の違いから性質が変わることもある。岩手県では、南部を中心に強酸性で低肥沃な「非アロフェン質黒ボク土」が広く分布しており、この土壌は塩基吸着能が高い特性を持つ。対して北部は火山灰由来のアロフェン質黒ボク土が分布している。

低地土は、主に河川周辺に分布しており、河川氾濫により堆積した土砂等が低地土の主な母材になる。一般的には肥沃な土壌として知られる。その中でも、グライ低地土は地下水位が高く、一般に排水不良なため、ほとんどが水田として利用されている。関東平野はこの低地土が広く分布する典型例だ。

亜寒帯の白い土たち
そして最北の世界へ。寒冷な気候の亜寒帯では、常緑針葉樹林が広がり、特徴的な土壌としてポドゾルが見られる。ポドゾルは、有機酸によって鉄やアルミニウムが溶け出し、下層へ移動することで形成される土壌で、灰白色の層を持つのが特徴だ。




ポドゾルは、本州の高山や北海道などの寒冷な気候下で見られる。2024年に訪れた長野県茅野市の北八ヶ岳にも広がっていた。東京にいると、高山や北海道に行かないと出会えないので、珍しい土のひとつだ。

また、有機質土の代表である泥炭土もこの地域に多い。植物が分解されきらずに堆積したものだ。北海道および東北地方に分布し、とくに釧路などの道東には幅広く広がっている。南のマングローブと対照的に、北では分解が遅れることで土が形成される。同じ「土」でも、気候や環境が変わるとまったく異なるプロセスになることがよくわかる。

普段、何気なく踏みしめている土。しかしその背景には、地質、気候、生物、そして長い時間の積み重ねがある。同じ日本の中でも、これほどまでに違いがあるという事実は、展示を通して初めて実感できる。これから各地を訪れる中で、足元の土にも目を向けてみたい。風景の見え方が、少し変わるかもしれない。
国立科学博物館基本情報
住所:〒110-8718 東京都台東区上野公園7−20
料金:一般・大学生: 630円、高校生以下・18歳未満・65歳以上: 無料
アクセス:
東京メトロ銀座線 上野駅(公園口)から東京メトロ日比谷線 上野駅(公園口)から. 徒歩10分
URL:https://www.kahaku.go.jp/
次回予告
次回は、2020年最初に訪問した水族館、サンシャイン水族館を紹介。周りに海がまったくない池袋の摩天楼の中に、日本で始めて作られた大型の屋上水族館はどのような場所なのか見ていく。
