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アカネサス構想シリーズ|第99回【10兆円を手放した男が最後に得たもの】──17年後に届いた返事

こんにちは、株式会社アカネサス代表の北條竜太郎です。

本シリーズも最終回です。

前回は、
セガの入交昭一郎氏が
倒産寸前のNVIDIAに500万ドルを出資し、

その株が今なら10兆円の価値になったのに、
セガの経営危機で売却せざるを得なかった
話をお伝えしました。

【10兆円を手放した男】──ある経営者の異常な決断

今日は、
なぜ持ち続けられなかったのか、
そして17年後の再会、
食品業界への教訓についてお伝えします。



◆ 持ち続けること自体が不可能だった

NVIDIAの株価が本格的に上がり始めるのは
2015年以降のことです。

セガが売却した1999年から2015年まで、
実に16年もの間、
NVIDIAの株価はほぼ横ばいか
低迷を続けていました。

その16年間、

セガはドリームキャスト撤退(2001年)
ゲーム事業の大幅縮小
サミーとの経営統合(2004年)と、

苦境が続きました。

財務が苦しい会社が、
16年間「含み益も出ない株」を
持ち続けることはできません。

仮に1999年に売らなかったとしても、
2001年か2003年には
同じ理由で売っていたでしょう。

赤字が出た原因と、
NVIDIAを手放した原因は、
同じコインの裏表だったのです。


◆ 自分が救った会社の株を、自分で売った

売却の最終決裁をしたのも、
入交氏自身でした。

社長として会社を存続させるために、
自分が救った会社の株を、
自分で売った。

そして2000年、
入交氏はセガを去りました。

正しい判断をした男が、
その果実を自分では受け取れなかった。

では入交氏は、
何も得られなかったのでしょうか。


◆ 2017年、17年後の再会

2017年。

入交昭一郎は77歳になっていました。

AIに関するセミナーの開催を
依頼された入交は、

講師としてジェンスン・フアンを
呼びたいと考えました。

当時フアンのNVIDIAは、
AIチップ市場で圧倒的な地位を築き、
時価総額は数十兆円規模。

世界中が注目するCEOです。

入交はフアンのメールアドレスを
なんとか突き止め、
恐る恐る連絡を送りました。

今の彼が相手にしてくれるだろうかと、
返信は期待していませんでした。


◆ すぐに届いた返事

ところが、
フアンからの返事はすぐに届きました。

「あなたからの連絡は、
なんと素晴らしくうれしいものです」

「あなたのお役に立ててうれしいです」

借りを返すのは当然、
といわんばかりの態度で、
フアンは即座に講演を快諾しました。

カネの話ではありませんでした。

義務でもありませんでした。

「信じてくれた人のために動く」

ただそれだけでした。


◆ カネではない形で返ってきたもの

ここで少し立ち止まって考えます。

入交氏がNVIDIAに出資したとき、
リターンの計算はできませんでした。

なにせ契約不履行を起こした
無名スタートアップへの追加出資です。

入交氏はその果実を自分では受け取れず、
会社のために株を売り、
会社を去りました。

それでも17年後、
フアンは即答で返事を返しました。

カネではない形で。


◆ 國場組の話との共通点

前回のシリーズで、
沖縄の建設会社・国場組の話を書きました。

700億円のテーマパーク
「ジャングリア」の
熱狂に乗らなかった会社です。

やらなかった判断を
誰にも説明しない強さ、
と私は書きました。

入交氏の話は、
その裏側です。

やった判断の果実を
自分では受け取れなかった男。

どちらも、
称賛を求めていません。

どちらも、
損得の外側で動いています。

そしてどちらも、
10年後か20年後に
静かに何かが返ってきたのです。


◆ 食品業界への教訓

ここからは、
食品業界の話をさせてください。

セガが10兆円を手放したのは、
「経営体力がなかったから」です。

持ち続けたくても、
持ち続けられなかった。

どれほど正しい判断であっても、
会社が苦しければ
その果実を享受することはできない。

食品業界でも、
同じことが言えます。

たとえば、
補助金で設備を入れた。

正しい判断だった。

しかし、

その設備を活かしきる前に
資金繰りが苦しくなり、
稼働率が上がらないまま5年が過ぎた。

あるいは、

良い取引先と出会い、
正しい判断で関係を深めた。

しかし、

自社の財務が弱く、
取引先が求める数量・品質・納期に応えられず、
関係が細くなった。

判断の正しさより先に、
「持ち続けられる体力」が
あるかどうか。

これが問われています。


◆ 信頼を形にするための体力

入交氏の500万ドルは、
計算から出てきたのではありません。

フアンへの信頼から出てきたのです。

しかし
その信頼を形にするために、
セガという「会社の体力」が必要でした。

役員会を説得できたのも、
500万ドルを動かせたのも、

入交氏に発言力があり、
会社に体力があったからです。

判断力だけでは何も動かせません。

動かすための体力が要るのです。


◆ 判断力と体力の両方が必要

設備投資にも、
補助金活用にも、
取引先との関係構築にも、

正しいタイミングがあります。

「みんながやっているから」は
決して正しいタイミングではありません。

「うちに必要だ」と
腹の底から思えて、

かつ、
持ち続けられる体力がある。

両方が揃ったときが、
本当のタイミングです。

「うちはうちでやります」

この一言を言える会社は、
「判断力」と「体力」の
両方を持っている会社です。

そういう会社だけが、
10年後も残っていると思います。


構造的ポイント

・正しい判断をしても
 持ち続ける体力がなければ
 果実は得られない

・17年後、カネではない形で
 信頼が返ってきた

・判断の正しさより先に
 「持ち続けられる体力」が問われる

・判断力と体力の両方が揃ったときが
 本当のタイミング


全2回にわたりお読みいただき
ありがとうございました。

── 北條竜太郎


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