ライブか、ミームか? USJゾンビ・デ・ダンス『唱』と『SO BAD』に見る表現戦略の変化
去年の熱狂と、今年のクールな違和感の正体は?
ダンス歴25年の私の直感は、今年のUSJゾンビ・デ・ダンス(King Gnu『SO BAD』)のクールな振付に、どうにも物足りなさを感じてしまう。
なぜ、前回のAdo『唱』はあれほど観客を熱狂させたのか? なぜ、今年のダンスはクールなのに、身体と魂が突き動かされないのか?
その差は、「誰に、何を、どう体験させるか」という表現戦略(デザイン)の方向性の違いにある。今回は、「熱狂のデザイン」と「反復のデザイン」という二つの戦略を、身体表現の視点から考えてみる。
1. 『唱』の勝利は「キレ」と「余白」のデザイン
あの熱狂は、DA PUMPのKENZOさんらを筆頭にしたチームによる、技術とバズる設計の完璧な融合だった。その成功の鍵は、踊りの習熟度が際立つように設計されていた点にある。
習熟度を可視化させる難易度の妙
振付は、全体を通して「ちょっと練習すればできるレベル」に設定されていた。この絶妙な難易度だからこそ、プロのダンサーであるゾンビの習熟度(キレ)がはっきりと可視化され、「ゾンビがキレッキレで踊るギャップ」という最高のカタルシスが生まれている。
日本人向けのデザインと余白の力
VOGUEというダンスジャンルにも通じるような手の細かい動きが多く、日本人の身体に合った繊細な表現に寄せられていた。これは、狭い画角のSNS動画でも「映える」優れたデザイン。
さらに、振付に余白が多かったため、踊るゾンビの個性が最大限に引き出されていた。
例えば、日本人形ゾンビが首を傾げたりカクカク感を出したりと、キャラクターごとの表現が乗る余地があり、観客の「発見の喜び」を刺激したのだろう。
また、ダンスのタイミングが明確な「ライブショー」形式で、観客と一緒に熱狂し、発散する空間の一体感を生み出していた。
2. 『SO BAD』のジレンマは「効率」と「反復」の設計
今年の『SO BAD』のダンスは、クールでかっこいいデザインだが、去年の熱狂とは別の、新しい戦略に基づいていると考えられる。
「熱狂しにくさ」の原因
曲のテンポが遅く、踊る前提だと熱狂しにくい。また、サビ以外はHIPHOPのようなダウンを含むダイナミックな動きが多い分、特徴的な手の細かい動きが前回に比べると少なく、リズムの取り方が単調に感じられる。
再現性とダンサーの技術への依存
前後左右の動きが少なく、サビだけを踊りやすくする設計が徹底されている。これは再現性を最優先した結果だが、プロのゾンビダンサーの「キレ」の魅力が埋もれてしまうというジレンマを生んだ。
さらに、前回のゾンビが集団で固まって踊る形式から、個別・その場で踊り出す演出に変更された。
そのため、ダンスが持つ「集団の圧力」が失われた。この形式だと、振付がダンサーのソロパワーに大きく依存してしまい、振付自体の魅力が伝わりにくくなる。
観客との距離は縮められるのはファンにとって嬉しい点だ。
中毒性が生む「遅効性」の熱狂
しかし、『SO BAD』のダンス動画の視聴者には「ぶっちゃけ微妙→なんか中毒性が→ダンスも真似したくなる→最悪で最高!!」というコメントがちらほら見受けられた。
これは「繰り返し視聴」を前提とした設計になっているからだ。
今年の戦略は、「熱狂」よりも、「ファン定着」と「反復」に重きを置いたデザインなのかもしれない。
「ファン作り」から「ナーチャリング」への戦略転換?
『唱』は、圧倒的に万人を惹きつけ、一緒に熱狂しやすいものだった。「騒いで楽しく発散する思い出」と「ゾンビ・デ・ダンスのファン作り」という、新規顧客の獲得と話題性の確保に重きを置いていたと考えられる。
話題性を確保しファンが定着した今年、現場のオペレーションを考慮し、混雑時でもより客入れできる方式に変えた可能性が高い。
混雑時に集団で踊るスペースを空けるクルーは相当大変なはず。また、人混みの中で一緒に踊るファン(ゲスト)も、動きの幅が大きいとぶつかるなどのトラブルになりかねない。
定着したファンは、第一印象が「微妙」でも楽しむために練習するだろう。そういった層にはこの「反復による中毒性」は効果的であり、ファンを育てるというナーチャリング戦略に転換したのかもしれない。
3. 新しい戦略の今後の評価に期待
ちなみに、ゾンビ・デ・ダンスが始まる前から、USJのゾンビにはセミプロレベルのダンサーが多く採用されている。彼らは動きの表現という引き出しも多く勘も鋭い。
今回の振付は、サビの難易度は観客に合わせて抑えるとしても、サビ以外のところではプロダンサーしか踊れないようなレベルで迫力をつけ、ソロでも映えるキレのある振付にしても良かったような気もする。
『SO BAD』はクールなダンスだが、前回の『唱』が作り出したような「その場で誰もが熱狂し、記憶に残る体験」という点では、少し見劣りするように感じた。
しかし、中毒性によって時間が経つにつれて魅力が増すという、これまでのゾンビ・デ・ダンスにはなかった新しい戦略も見て取れ、今後どう評価が変化していくのか注目したい。
ユニバ行く予定もあるので、後日レポートもまとめようと思う。
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