第1章「日本語ボランティアで学んだ「伝える力」
前回の記事「今の私の夢」で少し触れた、日本語ボランティアの話。
今回はそこから始まった物語を、もう少し詳しく書いていこうと思います。
「今の私の夢」はこちら
https://note.com/firm_carp5739/n/n2c347a39bc9d
第1章 「日本語教室での出会い」
幼い頃から映画が大好きだった。スクリーンに映る海外の世界に憧れを抱きながら育った。
外国人と働きたい、英語を話せるようになりたい。口では言いながら、その先にある具体的なビジョンは何もなかった。
どうして英語を話したいのか。英語を使ってどんな仕事がしたいのか。そういった問いに、自分は答えられなかった。
ただ頭の中で、楽して英語を習得して、映画のような世界で外国人と楽しく絡んでいるシーンを思い浮かべていただけ。
本気で英語学習に取り組むこともなく、口だけで夢を語っていた。
体調を壊してから、3年が経っていた。
紆余曲折ありながら、自信も勇気も失っていた。社会とのつながりを模索しながら自分の人生を見つめた時、あの漠然とした思いがずっと頭にあった。
外国人と関わりたい。その気持ちだけは消えなかった。
ふと、逆の発想が浮かんだ。英語は喋れなくても、日本語なら喋れる。だったら、日本語を教える側に回ればいいんじゃないか?
とりあえず外国人と絡みたい。そんな真っ直ぐで軽い気持ちで、日本語ボランティアを始めることにした。
地元にたまたま日本語教室があったので、連絡して見学に行った。当時お世話になっていた福祉職員の方と一緒だった。
緊張半分、ワクワク半分。どんな人がいるのだろう。みんななんで日本語を学びに来ているのか。こっちはこっちで、純粋な疑問を抱きながら教室に向かった。
教室の雰囲気は、ゆるかった。ボランティア講師の方たちが、受講生に教科書やホワイトボードを使って説明している。
学習者は主にアジアからの人たちで、中国、ベトナム、パキスタン、ネパール。年齢層は20代半ばが中心で、家族で来ている人や、親子で一緒に勉強している姿もあった。
彼らの印象は、とても謙虚だった。
それは、自分が持っていたイメージとは真逆だった。外国人はみんなノリがよくて少し騒がしい、そんな先入観があった。
でも実際に出会った学習者たちは違った。特に親日の人たちは、謙虚だけど元気。質問の仕方が、真っ直ぐなのだ。
「なんでこの日本語はこうなるの?」
「もっと日本語を喋れるようになりたい」
「もっと日本の文化を知りたい」
今の日本人に足りない、貪欲で純粋な20代ならではのまなざしを感じた。
目をキラキラさせながら「なんで?」「どうすればいい?」と聞いてくる。戸惑いというより、嬉しさと羨ましさが込み上げてきた。
当時の自分は元気がなかった。だからこそ、彼らの純粋さが眩しく見えた。
ボランティアを始めて2ヶ月後くらいから、ある学習者を担当することになった。
20代半ばの外国人。日本のアイドルと文化、食べ物が好きだという。
担当してすぐに、課外授業のイベントでハイキングに一緒に参加した。山道を歩きながら、日本と自国の違いについてお互いの国のいいところとよくないところを比べ合った。
そこから、少し距離が近づいた気がする。
そして、彼女が言った。「来年の10月まで日本にいるから、よろしくお願いします」
とても嬉しかった。久しぶりに頼りにされ、期待された。自分が元気を取り戻す、大きなきっかけになったと思う。
ただ、実際に質問を受けると、すぐに壁にぶつかった。
「これ『は』は何?」
「『へ』と『え』の違いは?」
日本語特有の助詞の使い方。助詞が変わるだけで意味が変わることを、彼らはまだ理解していない。
そして、そんな質問を受けて自分も思った。「確かに、なんでだ?」
教えようとしても、うまく説明できなかった。当時はパワープレイで乗り切るしかなかった。
今でも思う。いい教え方ができてなかったなって。
でも、そのもどかしさと、彼女の「よろしくお願いします」という言葉が、自分を前に進ませた。伝わらないからこそ、伝えたい。
その気持ちが、少しずつ芽生え始めていた。
次回
第2章 「伝える力」〜伝わる言葉・伝わらない言葉〜」
