“できないやつ”よりヤバい、致命的な人の話 最終話
Aさんとの距離を取ろうと決めたあと、
一つだけ、どうしても引っかかっていたことがあった。
あの仕事の振り方だ。
「自分とか、うちの部署の人間使うのもったいないんで」
「〇〇さん、やってよ。やり方わかるでしょ?」
個人的な感情を抜きにしても、
これは明らかにおかしい。
私の部署の仕事ではない。
しかも、
私の時間を使うことで、
結果的に自分の部署の工数を守っている。
私は少し考えて、
Aさん本人には、もう何も言わなかった。
代わりに、
自分の部署の上司に相談した。
理由は単純だった。
私の部署の上司なら、
「自分の部署の人の手間を、他部署の都合で使われること」を
好ましく思わないと分かっていたから。
Aさんが嫌いだとか、
態度が気に入らないとか、
そういう話は一切しなかった。
伝えたのは、
事実だけ。
どんな仕事を、
どんな言い方で、
どのくらいの頻度で頼まれているか。
上司は、
一通り話を聞くと、
「分かった」とだけ言った。
そしてそのまま席を立ち、
Aさんの部署へ向かった。
私は自席で、
少しだけ緊張しながら待っていた。
でも、
拍子抜けするほど早く、
話は終わった。
上司は戻ってきて、
「もう大丈夫。あっちはあっちでやるって」
そう静かに言った。
それだけだった。
怒鳴り声も、
揉めた様子も、
何もなかった。
あまりにも、
あっさりしていた。
そのとき、
私ははっきり分かった。
Aさんは、
私の言葉では折れなかった。
でも、
「立場」には、
簡単に従った。
私がどれだけ丁寧に頼んでも、
どれだけ我慢しても、
どれだけ正論を言っても、
変わらなかった人が、
上司という「正しい窓口」から話されると、
一瞬で態度を変えた。
仕事ができない人より、
本当に厄介なのは、
個人の善意や我慢に寄りかかる人だ。
そして、
そういう人に対しては、
感情で戦わないほうがいい。
必要なのは、
怒りでも説得でもなく、
構造に乗せることだった。
私は、
そこで一つ学んだ。
人を変えようとしなくていい。
正しい場所に、
正しい形で投げればいい。
それだけで、
世界は驚くほど静かに片付く。
Bさんがどうなるかは、
正直、分からない。
Aさんが変わるかどうかも、
たぶん分からない。
でも私は、
もう一人で消耗しない。
「言っても無駄な相手」と
真正面から戦わない。
同じ会社にいても、
同じ土俵には立たない。
それが、
今の私の選んだ立ち位置だ。
あとがき
この話は、
誰かを断罪するための話じゃない。
「仕事ができない人」を
叩きたいわけでもない。
ただ、
消耗しない選択肢がある
ということを、
過去の自分に教えてあげたかった。
会社は、たぶん変わらない。
人も、そう簡単には変わらない。
でも、
自分の立ち回りだけは変えられる。
それに気づけただけで、
この一連の出来事は、
私にとって十分意味のある経験だった。
同じような境遇の人がいたら
少しでも助けになればと思っています。
