「できないやつ」よりヤバい、致命的な人の話 第2話
Bさんが仕事を教わっている場面を、
私は何度か目にするようになった。
きっかけは本当に些細なことだ。
切手をもらいに事務員さんのところへ行くと、
Bさんの席が近く、様子が見えるのだ。
何度か事務員さんのところへ行くたび、
声がよく聞こえてきた。
最初は、ただそれだけだった。
Bさんのデスクの横には、
同じ部署のAさんが立っていることが多かった。
Aさんは、Bさんの教育係らしい。
最初は、
「大変そうだな」
そのくらいにしか思っていなかった。
Bさんは、
やっぱり動きが遅い。
説明を受けている最中も、
画面とAさんの顔を交互に見て、
どこか不安そうにしている。
でも、
次に聞こえてきたAさんの声に、
私は少しだけ、耳を澄ますようになった。
「なんでできないの?」
「さっき説明したよね?」
「それ、前にも言ったけど」
語気は強くない。
怒鳴っているわけでもない。
でも、
どこか冷たい。
Bさんは、
「すみません……」
「えっと……」
と、小さな声で答えている。
そのたびに、Aさんはため息をつく。
はっきり聞こえるくらいの、深いため息だ。
「それが分かってないと、無理だよ」
「そのレベルじゃ、この仕事は任せられない」
「期日は明日だけど、どうするつもり?」
Bさんは、黙る。
画面を見つめたまま、
手だけが止まる。
私は、
なんとなく落ち着かない気持ちになった。
確かに、Bさんは仕事ができない。
それは事実だ。
でも、
今聞こえてきた言葉は、
「仕事を教える言葉」だっただろうか。
Aさんは、
やり方を説明しているようで、
実は「できない理由」を探しているように見えた。
Bさんが少しでも手を止めると、
すぐに声が飛ぶ。
「何してるの?」
「止まってんだけど」
「考えてるヒマある?」
Bさんが席を立つと、
「どこ行くの?」
「今やるのはこれでしょ?」
Bさんがパソコンに顔を近づけると、
「目、見えてる?」
「なんでメガネしないの?」
「それで仕事できると思ってる?」
私は、
キーボードを打つふりをしながら、
何度もそのやり取りを聞いていた。
そのたびに、
胸の奥が少しずつ、
ざわっとする。
Aさんは、
Bさんを良くしようとしているのだろうか。
それとも、
「できないBさん」を前提に、
話しているだけなのだろうか。
Bさんは、
質問をしなくなっていった。
声をかけられても、
「はい」
「分かりました」
それだけを繰り返すようになった。
私は思った。
これって、
Bさんの成長に繋がっているんだろうか。
それとも、
ただ「できない人」を
さらに萎縮させているだけなんじゃないか。
まだこの時点では、
Aさんへの同情が大きかった。
ただ、
「なんか変だな」
その違和感を、
心の端にそっと置いただけだった。
でも、
その違和感は、
その後、何度も顔を出すことになる。
次回予告
次は、
Aさんの言動を見聞きするうちに、
私の中で少しずつ形になっていった
「ある共通点」について書きます。
なぜ私は、
Bさんよりも先に、
Aさんに違和感を覚えるようになったのか。
これは、
「仕事が出来ない人」より
ずっと厄介な存在に気づいてしまった話です。
