異なる文化の共存|子育ての観点から|海外で生きるということ①|
"Always be a little kinder than necessary" - J. M. Barrie
「必要と思うよりも、ほんのもう少しだけやさしくあろう」
愛する娘へ、
お父さんは、君が今高校生か、大学生くらいになって日本に住んでいるという想定でこの文章を書いていますが、君は少なくとも幼少期の何年かを海外で過ごしていることになります。
何歳の時に日本に戻ったか、あるいはそのまま海外で生活を続けたか、今はわかりません。ただお父さんを含めて、幼少期を海外で過ごしたお父さんの友人や知り合いの多くは、再び海外へ出ていくことを選択することも多いようです。
同じように、もし君がいま、日本人として日本で生活をするか、それとも海外へ飛び出していくか、迷ったときのために少し話をしておきたいと思います。
異なる文化の共存、シンガポールの場合
君はすでに知っているかと思いますが、お父さんも幼少期を海外で過ごしました。今この原稿を書いている2025年は、ドナルド・トランプ大統領が二期目当選し、国を分かつ奇抜な政策を次々と打ち出しており、お父さんが過ごした80年代のアメリカとは隔世の感があります。
君の祖父である、お父さんの父も、考えてみるとシンガポールの帰国子女でした。お父さんが君をつれて移住したときはすっかり忘れていましたが、4代続けて住むことになるとは、うちの家系はなにかこの国とはご縁があるのかもれしれませんね。
さて、君の祖父も、お父さんも、年齢によっては君も、いわゆる帰国子女というのは、日本に帰国したときには程度の差こそあれ、ほぼ確実にカルチャーショックというものを経験するかと思います。
それだけ国によって、なにからなにまで違うということです。
君が今住んでいるシンガポールでいえば、中華系、マレー系、インド系、欧米系、実に様々な人種が共存しており、よく"Melting Pot" (文化、人種のるつぼ)と表現されます。そして、人口を構成している人種に対応して、英語、中国語、マレー語、タミル語が共用語とされています。それぞれに信仰、宗教、習慣、食事まですべてまったく異なります。
人口の約97%が日本人である日本とは、当然のことながらいろいろなことが違ってきます。
そして、お父さんとお母さんが君を連れてシンガポールに移住してきたのは、これが大きな理由の一つです。
子育てからの観点
一言で言えば、Diverse な(多様性のある)環境で幼少期を過ごしてもらいたかった、ということになります。
これはお父さんの子育ての考え方になりますが、6歳くらいまでの幼少期の成長過程において最優先すべきことは、ルールを覚えることでも、感情や行動のコントロールを覚えることでも、知能指数をのばすことでも、ましてや知識をまわりの子供たちより早く詰め込みことでもないと思っています。
大切なことは、親から条件つきでない、無条件の愛情をたくさんもらいつつ、できるだけ多くの刺激に触れ、多くの体験をすること。
もちろん、これは日本にいながらでもできることですし、海外に住んでいても意識して環境を選ばないと、必ずしも実現できることではありません。
たまたま、お父さんの場合には仕事上、そのような選択の機会に恵まれたことが大きいですが、これだけ多様な人種と文化が共存しているシンガポールは、幼いころから多くの刺激を受け、様々な体験をするという意味でとても理想的です。
その多様な環境の中で育ち、お父さんが君に肌感覚で身につけてほしいのは、次の考え方です。
人と人は違って当たり前。
このあまりにも当たり前のことを、人は忘れがちです。
この当たり前をしっかり意識し、自分にも、他者にも温かいまなざしを向けて多くの人が生きていくことができたら、どれだけ世界は変わることでしょう。
そして、君のまわりの人々への接し方の中でこれを実践することは、とりもなおさず君のまわりの世界を変える、ということを是非覚えておいてください。
