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【日めくり】抹茶アイスと赤点【3月29日】

「あかん、マジであかん……」

期末テストの13点と、
ダイエット中の甘い誘惑。

女子高生の水森 渚(1年B組)は、
ダブルの「あかん」に頭を抱えていた。

3月29日。
世間は「マリモ記念日」らしい。
1952年のこの日、
阿寒湖のマリモが国の特別天然記念物に指定された。
渚はベンチでテスト用紙を眺めながら、
深いため息をつく。

「特別天然記念物……。そんな偉い藻(も)なら、私の悩みも解決してくれへんかな」

渚がこれほどまでに「あかん」と嘆くのには理由がある。

クラスで一番のイケメン、
佐藤くんと「テストが終わったら阿寒湖の遊覧船に乗ろう」と約束してしまったのだ。

「船の上で、スッキリしたシルエットで隣に立ちたい!」

そんな乙女心から、
マリモのようにキュッと引き締まったウエストを目指してダイエットに励んでいた。……
その結果、空腹で頭が回らず、
数学で「13点」という驚異の数字を叩き出してしまったのだ。

渚の視線の先には、コンビニの新作スイーツ。

『濃い味!宇治抹茶アイス・マリモ仕立て』

阿寒湖の奇跡にあやかった、
丸くて緑色の罪深い塊だ。

「ダイエット中やのに……。でも、記念日やし、お祝いせなあかんよね?」

それは、
自分に対するあまりに都合の良い言い訳。

「まりも」と「抹茶アイス」。
その親和性は、
渚にとって宇宙レベルで完璧だった。

丸くて、緑で、愛らしい。

見つめているだけで、テストの爆死も、
佐藤くんへの合わせる顔のなさも、
遠い過去のように思えてくる。

「あかん、このフォルムは反則やわ……」
渚は震える手でパッケージを開けた。

一口、頬張る。
「……っ! もりま!」
あまりの美味しさに、
渚の口から奇妙な言葉が飛び出した。

「盛りま(した)」の略。

彼女たちの世代で、
「美味しすぎて感情が盛れる」ことを指す最新のスラングだ。

抹茶の濃厚な苦味とミルクの甘みが、
口いっぱいに広がる。

それはまるで、阿寒湖の深い水底で、
何十年もかけて育まれたマリモの神秘。

……ではなく、
渚の脳内に直接語りかける「幸福の味」だった。

「あかん、これは一個じゃ足りひん。もりま、もりま!」

渚の「あかん(ダメだ)」は、
いつの間にか「あかん(最高!)」に変わっていた。

マリモが国の宝になったように、
この抹茶アイスも渚にとっては国の宝。

いや、世界の宝だ。
特別天然記念物級の美味しさに、彼女のダイエット計画は、あえなく「散(ま)りも」となった。

「3月29日は、抹茶アイスを食べる日。決定!」

水辺の「渚」という名の通り、
心に幸せな波を立てながら、彼女は宣言した。

テストの点数も、デートの服装も、
明日考えればいい。

だって今日は、マリモが特別になった、
大切な記念日なのだから。

〜あとがき〜

テストの「13点」という現実も、
抹茶の苦味で力に変えてしまう渚のように。


翌日の物語はこちら:


※本記事は個人の創作によるショートショート小説であり、実在の人物・団体・施設等とは一切関係ありません。


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