雨が降っている。これでもかってぐらいの雨。なにがなんでも花を散らしてやるぞっていう意志が感じられる雨。
私は、桜の前に立っていた。きみが愛した花の前に。ずぶ濡れになるのも構わず。服や髪が張り付くのも構わず。
ただの女が、偉大なる自然を前にできることなどない。
温かい桃色の花は、冷たい地面に叩き落とされて、泥水の色に変わっていく。
お願い。
それでも私は、祈っていた。
止んで、雨。
空から降り注ぐ鋭い水は、容赦なく地上を刺す。私を刺す。桜を刺す。
まるで、息の根を止めるように。
ひとひらにすらなれなかった花が、ぼとりとぬかるみに落ちた。
水たまりは血の沼で、花は切り落とされた生首みたい。
なんて残酷なんだろう。雨は。空は。自然は。
人間の祈りを聞き入れず、嘲笑い、時には命も奪う。簡単に。無慈悲に。
水たまりに落ちたこの花のように、きみは呆気なく命を落とした。
きみだけでなく、きみの愛したものまで、雨は奪おうとしている。空は、吸い取ろうとしている。自然は、壊そうとしている。
嫌だ。もうやめて。お願い。
涙を流しても流しても、雨に溶けていくだけ。
私は、ぐずぐずになった土にくずおれた。ひざまずくように。
地面には花びらがたくさんこびりついている。雨や風に命を奪われた、温もりだったものたち。桃色だったかけらたち。
きみのかけらを、愛の残骸を、夢中でかき集める。手はすぐに汚れた。爪の中に泥が入った。構わなかった。
どろどろになった命を、私はただ、抱きしめた。心臓に、命だったものをくっつけるように。きみを少しでも、感じられるように。
胸が茶色く染まる。雨と空と自然が導いた死の色に。
雨は降り続ける。空は桜殺しの刃を落とし続ける。自然は私たちを嘲笑い続ける。
桜は殺され続ける。
きみの愛した花は、無惨にも温もりを失っていっている。
それでも私は、きみを集めた。泣きながら、きみを愛した。
残酷な雨に、最低な空に、偉大なる自然様に、かすかな抵抗をしてみせた。
