セルフモニタリングの心理学:発達障害・高次脳機能障害から学ぶ「自分を観る力」
序章 セルフモニタリングとは何か
セルフモニタリングとは、
自分の状態や行動を客観的に観察し、必要に応じて修正する能力
です。
例えば、
今、相手はどう感じているだろう。
話が長くなっていないか。
今の自分は疲れている。
怒りすぎている。
このやり方では失敗しそうだ。
こうしたことに気づき、調整する力です。
言い換えれば、
「自分を外から見る力」
とも言えます。
1「自分を観る力」は脳の働き
セルフモニタリングは、
気合いや根性ではありません。
脳の働きです。
特に前頭葉は、
考え、
判断し、
行動し、
その結果を振り返る
役割を担っています。
脳がうまく働くことで、
私たちは自分を客観的に見ることができます。
2 発達障害ではなぜ弱くなるのか
発達障害では、
注意機能
ワーキングメモリ
実行機能
社会的認知
などの特性によって、
自分の行動を同時に観察することが難しくなることがあります。
例えば、
話していることに集中すると、
相手の表情が見えなくなる。
仕事を進めることに集中すると、
時間を忘れる。
つまり、
「行動」と「観察」を同時に行う負荷が大きい
のです。
3 高次脳機能障害では何が起こるのか
高次脳機能障害では、脳損傷によって、
セルフモニタリングそのものが障害されることがあります。
代表的なのが、
病識(自分の障害への気づき)の低下
です。
例えば、失敗しても
「自分は問題ない。」
と思ってしまう。
これは、怠慢ではなく
脳機能の障害です。
4 セルフモニタリングが弱いと起こること
影響は非常に広範囲です。
人間関係
・空気が読めない。
・一方的に話す。
・相手を傷つけても気づきにくい。
仕事
・同じ失敗を繰り返す。
・優先順位が立てられない。
・締切を忘れる。
感情
・怒りが爆発する。
・疲れていることに気づかない。
・ストレスをため込みやすい。
学習
・間違いを振り返らない。
・改善方法が分からない。
5 周囲から誤解されやすい
セルフモニタリングが弱いと、
周囲からは、
「反省していない」
「自分勝手」
「わがまま」
「成長しない」
と思われがちです。
しかし、本人は
「気づけない」
ことに困っている場合があります。
6 セルフモニタリングは鍛えられるのか
ある程度は可能です。
例えば、
振り返りノートを書く。
チェックリストを使う。
他者からフィードバックを受ける。
動画で自分を見る。
スモールステップで改善する。
重要なのは、
「反省しろ」
ではなく、
「気づきやすい仕組みを作る」
ことです。
7 価値有機実現理論(VORT)との関係
このテーマは価値有機実現理論(VORT)の「意識性」と非常によく重なると思います。
価値有機実現理論(VORT)では「意識性」を、
注視・観察
対照・比較
置き換え
研究
転換
実行設定
実存
受容・感謝
という一連のプロセスとして整理しています。
セルフモニタリングは、その入り口である「注視・観察」だけではありません。
例えば、
「今、自分はどういう状態か」と観察する。
「昨日と比べてどうか」と比較する。
「もし自分が相手の立場だったら」と置き換えて理解する。
「改善方法を調べる」と研究する。
「別の観点を探す」と転換する。
「明日は敢えて休憩を入れよう」と実行設定する。
「今日の自分を受け入れる」と受容する。
つまり、セルフモニタリングとは、
価値有機実現理論(VORT)の「意識性」の一部分であると同時に、
そのプロセス全体を動かす土台でもあります。
その意味で、私はセルフモニタリングを次のように定義できるのではないかと思います。
セルフモニタリングとは、自分自身を客観的に観察し、現実に適応するために行動を調整していく意識性の基盤である。
この定義は、発達障害や高次脳機能障害の理解だけでなく、教育、カウンセリング、キャリア支援など、幅広い分野で活用できる視点になると感じます。
終章 自分を観ることが、自分を育てる
セルフモニタリングとは、
自分を責めることではありません。
自分を知ることです。
人は、自分とその取り巻く現実を知ることで
初めて自分を変えることができます。
発達障害や高次脳機能障害は、
「自分を観る力」の大切さを、私たちに教えてくれます。
そして、この力は障害のある人だけでなく、
すべての人に必要な「生きる力」です。
自分を観ること。
そこから、人は少しずつ成長し、
人と世界との調和を育んでいくことができるのです。
