「仕様の密かな嘘」を暴く宇宙流ゼロトラスト
〜8月23日 07:30
本編では、人工衛星のソフトウェアにおいて
「とりあえずアップデート」が通用しない恐怖と、
16進数の海から1バイトの欠落を見つけ出した執念についてお話ししました。
しかし、そもそも「不具合を見つける」作業は、
機器を衛星に載せ、打ち上げた後に行うものではありません。
勝負は、新しい機器の搭載を決めたその瞬間、すなわち
「インターフェース(I/F)試験」から始まっています。
今回は、宇宙開発の現場で私たちが実践している、
相手が誰であっても、どれほど実績があっても決して信じない――
究極の「ゼロトラスト」な検証思想を解剖します。
宇宙開発の宿命:「試作」が「本番」であるという重圧
地上の製品開発、例えば家電や自動車であれば、
「試作機を何台も作り、壊れるまで試験して、熟成させてから量産する」
というステップを踏むことができます。
しかし、人工衛星、特に一品モノの大型衛星(個産機)は違います。
私たちが地上で作るその機体は、
数ヶ月後には宇宙へ行き、二度と戻ってこない
「本番機(フライトモデル)」そのものです。
衛星に乗せる機器は、試作機や検証機を製作して、
様々な検証を行うことが常です。
しかし、「試作用の衛星」は基本作られず、
衛星の製作は「一発勝負」なのです。
そのため、新しい機器との相性(I/F)は、
実際に宇宙に行く衛星に組み込まれる時には
「完成」されていないといけません。
「載せてみたら動かなかった」では済まされない。
だからこそ、私たちは機器同士の「接点(インターフェース)」に対し、
病的なまでの慎重さで臨みます。
なぜ「ゼロトラスト」でなければならないのか
インターフェースとは、いわば異なる国(機器)同士が結ぶ
「外交契約」です。
どのような環境(電圧や熱、取り付けなど)を約束するのか、
どのようなデータをどのようにやり取りするのか、ということを
明確に定義し、仕様書や文書に残しておきます。
しかし、海外のベンダーから調達した機器や、
最新の民生品(COTS)を活用する場合、
そのインタフェース、特に通信のための流れ(プロトコル)は
慣れ親しんだ機器とは違うことも多くあります。
私たちは仕様書やインタフェースを取り決めた文書を読み込みますが、
「文書に書いてあること」と「実機の挙動」が
100%一致すると信じるのは、宇宙では博打に等しい行為です 。
特に「今回のために作った」新しい機器ともなると、
本当に仕様が設計に反映されているか、慎重にならざるを得ません。
1バイトのズレやほんの僅かな遅延といった、仕様に対する
「わずかな不誠実さ」を見逃せば、打ち上げ後に
システム全体を崩壊させる火種となります。
だからこそ、私たちは「ゼロトラスト(何も信じない)」の精神で、
3つの包囲網を敷いてインタフェースの正体を暴きます。
不整合をあぶり出す、宇宙流「3つの包囲網」
私が現場で実際に行ってきた、
機器間通信のインターフェース不整合を未然に防ぐための試験
についてお話しします。
インタフェース試験とは、新しく接続する機器の
「検証機」を準備して事前にインタフェースを確認する試験です。
「衛星まるごとの試作機はないのに、どうやって事前にテストするのか?」
実は私たち宇宙エンジニアは、新しく接続する機器の「検証用基板」と、
衛星の頭脳となるコンピューターだけを、
机の上でむき出しのままケーブルで繋ぎます。
業界ではこれを「机の上の人工衛星(フラットサット)」と呼びます。
見た目はただの配線のスパゲッティですが、
システム上は紛れもない実機と同じ。
この「机上の宇宙」こそが、私たちがインタフェースの正体を暴く主戦場なのです。
インタフェース試験では、機器とのインタフェースや、
データを収集する機器なのか、何かを成業する機器なのか、など
機器の目的も考慮して試験内容を検討します。
その中でも、私が特に押さえておきたいと試験項目に盛り込んでいた
「3つの包囲網」をご紹介します。
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7月24日 07:30 〜 8月23日 07:30
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