巽くんと今日子さんエピローグ(おまけ噺)
エピローグ
少しシワの寄った渋沢さんを手のひらで押さえるように撫でてから、入れるための封筒を探す。巽くんがくれたような薄いものがいいと棚の上の封筒を見る。
ん?この封筒で良くない?
巽くんが最初にくれた二人のきっかけとなった封筒。中には巽くんがくれた新札、北里さんと梅子さんを入れている。お二人はこちらにと、ビロードの生地が貼ってあるジュエリーBOXの引き出しに移し、愛着ある封筒に少しシワがあるけど新札の一万円を入れて、黒のクロコダイルのような型押しがしてあるおサイフの中に大事にしまった。
*
「今日はどのオムライスにしよう。」
好きなものがハッキリしていてなんでも定番がありそうだと思っていた巽くんは、意外とチャレンジ精神旺盛でこの店のオムライスの全種類制覇を狙っている。
「今週は頑張ったからハンバーグものせる。」
そう言って子どもがすきなメニューが好きなんです、あとは焼き肉かなと色々好きなものを教えてくれる。
「今日子さんは?」と聞かれても、これが好きというのがすぐに答えられない。
「苦手なものはチーズとわさびであとはなんでも…。その時の気分にあったものが一番です。今日の気分は…、たらこスパゲッティに決めました。」と注文した。
*
「あっそうだ。コレ、持ってきました。二人のおサイフです。」
カウンターでポコポコと音を立てるサイフォンの音を聴きながら、黒のおサイフを出して見せる。
「一万円を入れたらいいんでしたね。新札ですよ。」と巽くんは自分のおサイフから取り出してくれた。
「ありがとうございます。私のはもう入ってます。」
そう言っておサイフを見せると「あの封筒ですか。」と笑った。
「はい。置いておくお札はこっちでいいですか。今日のお会計から巽さんの一万円使わせて頂いて、少なくなったら2人とも一万円を足していくなんてどうですか。次からは新札じゃなくて大丈夫です。」
「うん。分かりました。」
ふたりで目の前に置かれた珈琲の薫りを味わう。
ほんのりと立ち昇る白い蒸気とゆっくりと模様を作って沈んでゆくフレッシュを見ながら言葉を継ぐ。
「あとこの記念の、封筒に入った一万円ですけど…。
もし、…もし、お別れすることがあったらその時は、この一万円で一緒に美味しいものを食べましょう。なんとなく連絡がなくなって、そのままフェードアウトになってしまうのはイヤです。」
そう、ボッチになってひとり取り残されてしまうなんてもうイヤでそんなこと考えたくない。
「なにを、また。」この人は…と少し呆れるような顔をしながらも、深い息を吐いてから「今日子がいうならいいですよ。」と静かにいった。
自分に自信がないから、すぐに、だってだってが出てきてしまう。ずっと一緒にいたいけど、そう出来なかったときはせめて美味しいものを一緒に美味しく感じることができる程度のいい関係で終わらせたい。
「その時のメニュー、何がいいかはまだまだ決めませんよ。」と笑った。
春が来て桜を見ては来年もまた一緒に見たいと願う。
今はもう新緑が眩しい。
そんな中、新しいバイトが入ってきた。
巽くんの大学の後輩で地元も同じらしい。彼女目当てにくるお客さんにも明るく接客してもう人気者になっている。
仕事にも熱心で「巽さーん、巽さーんっ。」と声が聞こえる。他のメンバーともすぐ馴染みキャッキャ、キャッキャと楽しそう。
近くを通り過ぎるとき思わず俯いて早足になった。
相変わらず連絡するのは私からだけど、巽くんになんとなく連絡できないでいる。
だって、彼女、小さいし。若いし。
可愛くて、キャッキャキャッキャと仔犬みたいだし。
話が盛り上がっているなか通りがかった私に「あっ、今日子さん。」と声をかけてくれる。
巽くんだ。いつもと変わらない真っ直ぐな声。
でも口角だって動かさないまま力なく笑い、その場から気持ちはもう逃げていた。
*
夜になってLINEが入る。
tatsumi
─
今日、体調わるそうだったけど
大丈夫?
─
体の具合じゃないけど心がしんどくてツラいのです。
無理して平気なフリもしたくない。
─
正直にいいます。
やきもち です。
─
tatsumi
─
ええー、やきもちなの?!
誰に、誰に。
─
そのあと、なんか完全に面白がるから開き直った態度を取ってしまった。巽くんは人との間合い礼節を大切にするおサムライさんなのをすっかり忘れてた。私だって自分のイヤなところ見てしまってしこりとなって残っている。
LINEはまた、既読にならない日が続いている。
残りが少なくなった二人のおサイフが目に入った。
このまま終わってしまうのかな。最後になるかもしれないけどとメッセージを送った。
─
この前はごめんなさい。
私の方はまだまだ美味しいもの
食べに行きたい気はあります…。
また一緒にゴハン行けるなら連絡下さい。
─
翌朝、既読にはなったけどメッセージは入らない。
もうダメかとお昼近くにスマホを見るとメッセージが入っていた。
tatsumi
─
今日はランチまだ間に合う?
色々思うところもあったけど
仲直りしたいです。
─
返事を送ってオムライスのお店に向かう。
早く会いたくて1時には、と伝えたけれど今日は私が遅刻しそう。先に来ている巽くんをバツがワルくチラッと見上げて聞いてみる。
「最後のゴハン…、じゃないですよね。」
「今日子は最後がいいの?」
「最後なんて無理です。というか最後に一緒にゴハンなんて言ったのに、こんな状態で会ってゴハンなんて無理だー、なんて思ってました。」
「それは…」と上を見上げてから
「お互い様でしょ。」とこちらを向いた。
その言葉を聞いてやっと暫くぶりに顔を見る。
頭をぽんぽんしながら「小さいだけじゃないから。」と言う。
「うん。」
「ちゃんと言葉で伝えてくれようとしてるのはわかってます。その言葉にウソがないのも。」
「でもオムライス食べて美味しいっていうのと同じでその言葉はその時の気持ちってことで、その場その場で大事に受け取ります。」
「一期一会ってこと、かな。」
「そうです。その時々と積み重ねていくもの、両方大事にしていきたいです。だからこの間の態度は悪かったです。ご免なさい…。許してくれますか。」
巽くんもチラッとおどけるような顔をしてから言う。
「僕たちはお互いカゼを引いたんです。」
「もう、大丈夫。オムライスいきましょうか。」
やきもちはもうすっかり食べてなくなりました。
おなかいっぱい。今度は別のを食べますね。
そう心の中で呟いて、カバンの中、サイフを確かめてから右手を繋いだ。
帰ったらおサイフの中の封筒に北里さんと梅子さんだって一緒に入れよう。そしたらきっと寂しさなんて感じない。
一万円と一万円…と五千円と千円と。
フィフティ·フィフティじゃなくていい。
多すぎるぐらいが丁度いい。
それがほんのり透けてみえるぐらい。
それがきっと私には丁度いい。
なんのはなしですか
渋沢さん と 北里さん と 梅子さん
それは封筒にしまった私だけの秘密のお話
#なんのはなしですか #路地裏小説部
恥ずかしながら恋愛小説書いてみました。
創作対象応募用にエピローグとして貼り付けて応募します。お読みいただきありがとうございました🤍

バックは弁財天さん
嫉妬している人はそれを隠すべきです。
最低限の礼節だと思います。
SAGAN サガンの言葉 山口路子 著
東京神保町で購入しましたよ
《2025創作大賞》には恋愛小説部門でエントリー
タイトルは20年毎の新札発行になぞらえて『二十年に一度の奇跡』としました。ショートショートとして書き始めて各話の繋がりの良くなかったところを加筆修正して一本にしております。
長いですが良ければ“好き”いただけますと嬉しいです。
よろしくお願いします。
