── フリー戯曲素材 / 使用・改変自由 ──
■ 使用について
この脚本は非商用・商用問わず自由に上演・改変が可能です。
クレジット表記(作:Flying baby)をしていただければ、事前連絡不要でお使いいただけます。
脚色・短縮・朗読劇化も自由です。上演時のSNS投稿も歓迎します。
投稿の際にはタグに#Flyingbabyをお願いします。
虚栄(簡易版)
■ あらすじ
笑って、と言われて笑うことが、いつから“演技”になってしまったのか。
SNSで3万人のフォロワーを持つ若い母親と、脚本家の父親。
1歳の子どもが目をそらし、レンズを手で塞いだとき、親たちは静かに立ち止まる。
映えることと、生きることの違い。子どもの“無言の拒否”と、それに気づける大人の小さな選択。
「オフにしていいよ」──その言葉が、きっと誰かを救う。
■ 登場人物
涼(りょう):38歳。脚本家。静かに観察しながら語るタイプ。
ミユ:26歳。インスタグラマー。息子の将来に懸けている。
カナタ:1歳の息子。セリフなし。反応のみで描写される。
第一幕:夜、リビング
(舞台中央にリビングセット。ミユはスマホを手に編集作業中。涼はソファで脚本を広げている。沈黙。)
涼(顔を上げて)
もう寝た?
ミユ
うん。さっきやっと。
涼
……まぶしそうだったね。撮ってたとき。
ミユ
光落としてるけど、自然光っぽくするにはこのくらいじゃないと。
涼
自然光を“っぽく”ね。
(沈黙)
ミユ
このシーンさ、もうちょっとテンポあったほうがいいと思わない?
涼
笑ってた?
ミユ
……うん。ちょっと、だけど。
涼
なんか、笑ってるっていうより……耐えてる顔に見えた。
ミユ
前はもっと、楽しそうにしてたよ。カメラ向けると、自然に笑ってくれてた。
涼
それ、いつまでの話?
ミユ
……最近、ちょっとイヤそうな顔するのは気づいてる。でも、やっぱり続けないと。
涼
無理してるのは誰? カナタ? それとも……
(ミユ、スマホを伏せて沈黙)
──暗転。
第二幕:翌日、リビング
(翌日午前。ミユが子どもの写真を撮ろうとするが、カナタは顔をそむける)
ミユ
カナタ、こっち……笑って?
(カナタ、手でカメラを遮る動き)
ミユ(小声で)
……なんで笑ってくれないの……?
(涼が部屋に入ってくる)
涼
まぶしいんじゃない?
ミユ
……わかってる。でも、やらなきゃ。企業の締切、今日までなの。
涼
やらなきゃいけないことが、この子に“我慢させること”なら、一回立ち止まろ?
(ミユ、泣きそうな目でカナタを見る)
ミユ
……どうしたらいいの? 将来困らないようにって思ってた。なのに。
涼
“この子の未来”って、誰の未来の延長線上にあるのかな。
──暗転。
第三幕:夜、再びリビング
(夜、ミユは編集をやめ、スマホを閉じている。涼がコーヒーを持ってくる)
涼
今日は、もうオフにしない?
ミユ
……なにが?
涼
全部。光も、構図も、表情も。
(ミユ、ゆっくりうなずく)
ミユ
止めてくれて、ありがとう。私、きっと止まれなかった。
(照明が徐々に落ちていき、子どもが寝息を立てる音だけが響く)
──暗転。
虚栄(脚色版)
【第一幕】昼、リビング - 異変の兆し
ミユがスマホで動画を撮っている。カナタはカメラを見ず、そっぽを向いている。
涼は机で仕事をしているが、様子に気づき、手を止める。
ミユ
……またダメか。前はもっと笑ってくれてたのに。
涼
嫌がってるのかな。
ミユ
そんなはず……。だって、この前まで楽しそうだったよ?
涼
でも、今日は目を合わせてくれないよ。
(ミユ、少し戸惑いながらスマホを伏せる)
【第二幕】夕方、スマホ通知と現実
スマホに届く通知音。企業案件のリマインド。コメント欄には「やらせっぽい」「かわいそう」などの声も混じる。
ミユ
……このタイミングで、なんでこんなコメント。
涼
炎上……ってほどじゃないけど、無視できないよね。
ミユ
この案件、今落としたら次の依頼もう来ないかもしれない……。
涼
でも、そのためにカナタが犠牲になるのは違う。
【第三幕】夜、言葉の衝突と過去の痛み
カナタは眠っている。ミユと涼の間に沈黙が落ちる。
やがてミユが語り始める。
ミユ
私がフォロワー増やすのに、どれだけ苦労したか分かってんでしょ!?
今を逃したら、この子は一生後悔するかもしれないのよ!?
涼
……わかってるよ。君の努力も、不安も、焦りも。
でも、君だって知ってるよね? カメラの向こうにある現実を。
僕は、あの現場で笑えなかった子たちを知ってる。
“売れる子”って言われながら、どれだけ壊れていったかも。
ミユ
……そんなの、私だって……知ってる。
涼
なら、今は僕たちだけがフォロワーでいよう。
この子の表情、誰かに見せるためじゃなく、僕たちだけで受け止めようよ。
【第四幕】朝、静かな時間
カナタが静かに遊んでいる。
ミユはスマホを見つめるが、やがて画面を閉じて涼の隣に座る。
ミユ
私、怖いの。何も残らなかったらどうしようって。
涼
大丈夫。
この子の“今”がちゃんと残ってれば、それでいい。
記録じゃなくて、記憶に。
【第五幕】同日、午後 - 小さな選択
案件の通知がまた届く。
ミユはスマホを手に取りかけるが、カナタの目を見て、そっと伏せる。
ミユ
……今は、やめとく。撮らない。
涼(微笑んで)
それだけで、十分すごい選択だと思う。
(二人はカナタを見つめながら、ゆっくりと時間が流れていく)
──どこにも映らない時間が、いちばん輝いていた。
