関門捉賊は「逃げ道を塞ぐ計略」ではない──実行コストを操作し、行動を制御する

三十六計第二十二計「関門捉賊(かんもんそくぞく)」は、
「関所や門を閉じ、逃げ場を失わせて敵を捕らえる」
という意味から、
「逃げ道を塞ぐ計略」
として説明されることが多い。
もちろん、それも間違いではない。
しかし、本当に重要なのは、
なぜ人は逃げなくなるのか
という認知の仕組みである。


人は可能な行動ではなく、実行しやすい行動を選ぶ

人には複数の選択肢が存在する。
しかし、
存在する選択肢と、
実際に選ばれる選択肢は同じではない。
人は常に、
実行に必要な

  • 時間

  • 労力

  • 危険

  • 手間

  • 金銭

といったコストを無意識に評価している。
そのため、
実行コストが低い行動ほど選ばれやすい。

逃げ道は消えたのではない

例えば戦場では、
橋を落とす。
城門を閉じる。
崖へ追い込む。
これらは、
逃げ道を物理的に消しているように見える。
しかし実際には、
逃げるためのコストを極端に高くしている
のである。
逃げれば、
矢を浴びる。
崖から落ちる。
敵に包囲される。
つまり、
逃げるという選択肢は残っている。
ただ、
実行する価値がなくなるほど、
コストが増えているのである。

現代ではコストが情報へ置き換わる

この構造は、
現代でも変わらない。
例えば、

  • 解約ページが見つからない

  • 電話でしか解約できない

  • 平日昼しか受付していない

  • 違約金が発生する

  • データ移行が困難

これらは、
解約という選択肢を消しているわけではない。
解約の実行コストを高めている
のである。
その結果、
多くの人は現状維持を選択する。

レコメンドも同じ構造である

逆に、
レコメンドアルゴリズムは、
選択コストを下げている。
世界には何百万という情報が存在する。
しかし、
実際に人が見るのは、
おすすめとして表示された数十件程度である。
つまり、
認知できる候補を限定することで、
比較するコストそのものを減らしている。
人は、
自由を奪われたとは感じない。
むしろ、
「選びやすくなった」
と感じるのである。

関門捉賊は実行コストを設計する計略である

だから関門捉賊とは、
出口を物理的に塞ぐ計略ではない。
相手の
実行コスト
を操作することで、
結果として、
取り得る行動を制限する計略なのである。
望む行動のコストを下げる。
望まない行動のコストを上げる。
その差が大きくなるほど、
人は自然と設計者の望む方向へ動く。

おわりに

人は、
存在する選択肢から行動を選んでいるのではない。
実行しやすい選択肢
から行動を選んでいる。
だから関門捉賊とは、
逃げ道を塞ぐ兵法ではない。
実行コストを操作し、実質的な選択肢を設計する兵法
なのである。
現代の契約設計、UI/UX、レコメンドアルゴリズム、サブスクリプションの解約導線なども、この認知原理の上に成り立っていると言えるだろう。

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