「連環計」は本当に「鎖で繋ぐ計略」なのか連環計は「依存関係」を設計する認知戦である
赤壁の鎖は「連環計」の一例に過ぎない
「連環計」と聞くと、多くの人は赤壁の戦いで船を鎖で繋いだ場面を思い浮かべるだろう。
そのため、
「連環計=物理的に繋ぐ計略」
という印象を持たれやすい。
しかし、本質はそこではない。
鎖はあくまで一つの手段であり、連環計の本質は、
複数の出来事や条件を連鎖させ、一つの仕掛けでは抜け出せない構造を作ること
にある。
赤壁でも重要だったのは鎖そのものではなく、
船を繋ぐ
↓
揺れが減る
↓
北方兵も戦いやすくなる
↓
艦隊が一体化する
↓
火が一隻から全体へ燃え広がる
という因果の連鎖である。
連環計とは、この「関係性」を設計する計略なのである。
人は「要素」は見ても「関係」は見落とす
人間は物事を個別に理解することは得意である。
しかし、
複数の要因がどのように結びついているか
を正確に把握することは、それほど得意ではない。
例えば、
一つ一つの契約
一つ一つのルール
一つ一つのシステム
は理解できても、
それらが互いに依存し合うことで生まれる制約までは見落としやすい。
認知科学では、このように複雑な相互作用を過小評価する傾向を、
Complexity Neglect(複雑性の軽視)
と考えることができる。
人は部品を見る。
しかし、
システム全体は見落とす。
そこに連環計は成立する。
連環計とは依存関係を設計する計略である
連環計は、一つの策で相手を拘束するものではない。
複数の要素を結び付け、
どれか一つを選ぶと、別の選択肢まで制約される状態を作り出す。
つまり、
自由を奪うのではなく、自由に見える選択肢を依存関係で包み込む計略
なのである。
一つの鎖は切れる。
しかし、
何本もの鎖が互いに支え合えば、一つ切っても全体は崩れない。
これが「連環」の思想である。
現代社会にも存在する「連環」
この構造は現代でも数多く見られる。
例えば、
クラウドサービス同士の連携
サブスクリプション契約
SNSとアカウント認証
サプライチェーン
社内システム
どれも個別には便利な仕組みである。
しかし、
認証はA社、
保存はB社、
決済はC社、
コミュニケーションはD社、
というように依存関係が増えると、
一つ変更しただけで全体へ影響が広がる。
これもまた、現代の連環と言える。
問題は一つの部品ではなく、
部品同士の結び付き
なのである。
おわりに
連環計は「鎖で繋ぐ計略」ではない。
複数の因果関係や依存関係を設計し、一つだけでは抜け出せない構造を作る計略
なのである。
赤壁では、その構造が鎖という形で表れた。
しかし本質は物理的な鎖ではなく、
「関係性を設計すること」
にあった。
だから私は、連環計を単なる兵法ではなく、
人間が複雑な依存関係を見落としやすいという認知特性を利用したシステム設計の計略
として読み直すことができるのではないかと考えている。
三十六計を認知科学の視点から見直すと、そこには戦術だけではなく、
人は個々の要素には気付いても、その背後にある「関係性」や「システム」には気付きにくい
という、人間の認知の限界が描かれているように思えるのである。
