AI小説 星を信じた日 2年生編
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プロローグ
三月の終わり、空はまだ冬の鋭さをわずかに残していた。
科学館の屋上テラスには、数人の影。風は冷たいが、空気は澄み、星はよく見えていた。
春休みといっても、夜遅くに集まれるのは珍しい。テストも終わり、進級の区切りを迎えたこの日、
天文サークル「星窓」は、少しだけ名残惜しそうに、夜空を見上げていた。
「……あれって、こと座?」
「いや、まだ昇ってきてない。多分あれは白鳥座の前駆けだな」
東條と佐倉のやり取りが聞こえる。
その隣で、千尋が小さなスケッチブックに星の配置を描いていた。
蓮は、望遠鏡のキャップを外しながら、冷えた指先をさすっていた。
「春の星座って、何かこう……空の中でほどけていくみたいだね」
千尋が、スケッチを覗きながら言う。冬の星座たちのような強い結び目はない。春の星たちは、どこか遠く、やさしい。
「……あ。思い出した」
そのとき、東條がふと声を上げた。
「前に天文ガイドで読んだんだけど、“スターキャッチコンテスト”って競技、知ってる?」
「……スターキャッチ?」蓮が顔を上げる。
「望遠鏡で、どれだけ速く目標の星をファインダーに導入できるかって競争。スピードと精度が試される、ちょっとした技術競技らしい」
「つまり、手動導入の腕試しってことか」
「そうそう。観望会のときにスタッフが遊びでやってたって。何秒でターゲット星を捕まえられるか、みたいな」
佐倉が腕を組んで考える。
「……やってみるか。せっかく機材もあるし」
「いいね。やろうよ」
千尋が頷くと、東條が急にそわそわしはじめた。
「うわー、俺、こういうの地味に負けず嫌いなんだよね」
「じゃあ、今日の記録係は千尋に任せるか」
蓮が笑いながら言うと、千尋はノートを開いて頷いた。
「了解。タイムと星の名前、導入成功者と等級を書いていくね」
### 🌠スターキャッチ・ルール(簡易)
* 各自の望遠鏡を使用し、指定された天体をできるだけ早くファインダー視野に導入する
* 導入した瞬間に「キャッチ!」と宣言、記録係がタイムを記録する
* 明るい星は練習用、暗い星ほどポイントが高く、総得点で勝敗を決める
* 星図使用は可。スマホ・自動導入は禁止
「じゃあ、第一ターゲットは……月にしようか」
佐倉が東の空を見上げながら言った。
「月?」と東條が笑う。「さすがに見えすぎじゃない?」
「でも、見えてるからこそ、速さが試される。視野にぴたりと合わせるのって意外と難しいんだよ」
「たしかに。月って思ったより大きいから、中心に入れるの難しいしな」
蓮も準備を整えながら頷いた。
「よし、行こうか」
千尋がストップウォッチを構えた。
「第一ターゲット:月。よーい……スタート!」
三脚を押さえながら、みんなが一斉にファインダーに顔を寄せる。
スコープを微動で動かす音が、カチリ、カチリと静かに夜に響く。
「キャッチ!」
「入った!」
「……あっ、通りすぎた!」
屋上に、素直な歓声が広がった。
誰もが子どもに戻ったように、真剣に、でも楽しげに空を見ていた。
千尋は記録を取りながら、空に浮かぶ月を見上げた。
こんなふうに、ふざけたようで本気の時間が、あとになって“何より大切だった”って思えることがあるのかもしれない――そんな気がした。
スターキャッチの勝者が誰だったか、それはすぐに記憶のなかでぼやけていった。
記録帳に残った数字よりも、あのときの笑い声や、風の感触のほうが、よほどくっきりと心に残った。
やがて、春は本格的にやってきて、
誰もが進級や新しい生活に追われるようになる。
サークルの名を口にすることは少しずつ減っていったけれど――
それでも、誰も「やめる」とは言わなかった。
ただ、風が変わり、歩く方角が少し変わっただけ。
星窓は今も、静かにその屋上に在り続けている。
それだけで、十分だった。
第1章 扉の向こう側
四月の風は、まだ春と呼ぶにはひんやりとしていた。
始業式を終え、二年生になった蓮は、昇降口の外でひとり風を受けていた。
制服の袖から少し伸びた手をポケットに入れて、空を見上げる。
雲の切れ間に、うっすらと青空が覗いていた。
ふと、名前を呼ばれた。
「……あの、綾瀬さん、ですよね?」
振り返ると、見慣れない女子生徒が、少し緊張したような面持ちで立っていた。
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