「内々のまつり」の厳守事項
第1章 消えゆく年中行事
第5譚 祭りと神様にまつわる十の話(3)
第1章 沈黙という名の「防壁」
朝靄というものは、音を溶かす。
霧が深いとき、犬の遠吠えも、川の瀬音も、どこかうわの空のような質感を帯びて、耳の手前で立ち消えてしまう。だから私は最初、その集落の異様さを「靄のせい」だと思い込もうとした。
祠の前の広場に、老人たちが集まっていた。七人か、八人か。正確な数が把握できなかったのは、彼らが微動だにしないためだった。藍色の野良着を着た者、白い裃を纏った者、杖を両手で握りしめながら立ち尽くす者。誰もが、石になっていた。
声が、なかった。
挨拶もなく、咳払いもなく、足を踏み替える衣擦れさえもなく、彼らはただ、祠の木戸をじっと見つめていた。木戸の向こうは暗く、中で何が行われているのか、私のいる位置からは分からなかった。私が口を開きかけたとき、傍らにいた案内の村人が、素早く私の腕を掴んだ。掴まれた指の力が、「声を出すな」という意味を余す所なく伝えていた。
夜が白み始めていた。東の稜線が、わずかに橙みを帯びようとしていた。
そのとき、木戸が、内側からゆっくりと開いた。
中から出てきたのは、宮司らしき老人一人だった。彼は何も言わなかった。何も。ただ集まった人々の顔を順番に見回し、小さくうなずいた。それだけで、「祭り」は終わった。老人たちは、来たときと同じ無言のまま、ばらばらと散っていった。誰も振り返らなかった。誰も、互いに目を合わせなかった。
私はその光景を記録したエッセイ「消えた村まつりの祠」の中で、あの静寂を「奇妙な荘厳さ」と形容した。だが今の私なら、別の言葉を選ぶ。
あれは、荘厳さではなかった。
あれは、全員が、息を止めていたのだ。

夜と朝の境界に漂う静寂が、何かの到来を待っているかのようだ。
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