壊したくないから、手を離した恋
好きになった人には、
帰る場所があった。
それを知ったとき、
胸が少しだけ、静かになった気がした。
苦しいとか、悲しいとか、
そういう分かりやすい言葉じゃなくて、
ただ、ひとつの現実が、
すっと自分の中に降りてきたみたいに。
あの人は、
たくさんの人に愛されていて、
笑っていて、
音の中で生きている。
その全部を、壊したくないと思った。
たぶん、近づこうと思えば近づけた。
少しだけ踏み越えようと思えば、
その線は、思っているよりも簡単に越えられるものだったと思う。
でも、越えた先にあるものを想像したとき、
わたしの中の“好き”は、
「欲しい」じゃなくて、
「守りたい」に変わっていた。
あの人の音楽も、
あの人の居場所も、
あの人が積み上げてきたものも、
全部そのままでいてほしいと思った。
そして同時に、
それを壊してしまうかもしれない自分が、少し怖かった。
だから、少しだけ距離を置くことにした。
諦めた、というより、
そっと手を離した、という方が近いかもしれない。
本当は、まだ好きやのにね。
会えば、きっとまた笑ってしまうし、
少しの仕草で、心は揺れる。
それでもいいと思っている。
この気持ちは、消さなくていい。
ただ、形を変えて、持っていけばいい。
近くで触れ合うことだけが、
愛じゃないって、知ってしまったから。
遠くから見ているだけでも、
こんなにも優しくて、あたたかい気持ちになれることを、
わたしは初めて知った。
だから今日も、
あの人のいる場所を、少しだけ遠くから見つめている。
それでいいと思っている。
綺麗事なんて、いらない。
♡読んでくれてありがとう。スキしてもらえると励みになります。どこかでこれを読んでくれたあなたの心に少しでも触れ救いになります様に♡
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