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【古着小説】デニムに刻まれた名前 〜Eric Bの夢〜(1/2)

この服には、誰かの物語がありました。
袖を通すように、想像しながら読んでみてください。
※前の持ち主をイメージしたフィクションです。

第一部:デニムと夢の行方

1993年、サンフランシスコの朝はいつも霧がかかっていた。
フィッシャーマンズワーフ近くの小さなカフェ。コーヒーの香りと、どこかから流れるサイモン&ガーファンクルのメロディー。
そのカフェの隅に、毎朝同じ席でノートに何かを書き続ける男がいた。

エリック・B。
20代半ば、痩せた体にオーバーサイズのデニムジャケットを羽織り、ギターケースを椅子の横に立てかけている。
そのデニムジャケットは色褪せ、袖の端は少し擦り切れ、胸ポケットにはくしゃくしゃのレシートとライターが突っ込まれていた。
タグの裏には、黒のマーカーで「ERIC B」と書かれている。

それは彼が18の時、母がプレゼントしてくれたものだった。
「これを着て、どこへでも行きなさい。好きな音楽を続けなさい。」
母はそう言って、彼を送り出した。

だが、現実は厳しかった。
昼はレコードショップで働き、夜は場末のバーで演奏する。
時にはフィッシャーマンズワーフのストリートでギターを弾き、小銭を稼ぐこともあった。
彼の音楽は、流行りのグランジとは違い、70年代のフォークソングの影響が強かった。
「今の時代には刺さらない」
レコード会社のスカウトはそう言い残して去っていく。

「俺の歌は、そんなに時代遅れか?」

コーヒーを飲み干し、エリックはため息をついた。
そんな彼に声をかけたのは、バーで働く女性、ソフィーだった。

「今夜、うちの店で歌わない?」

その夜、彼はソフィーが働くバーのステージに立った。
客のざわめきをよそに、彼は静かにギターを爪弾く。

そして歌い始めたのは、自分のデニムジャケットをテーマにした曲だった。

「This old jacket keeps me warm, keeps my dream alive.」
(この古いジャケットは俺を温め、夢を生かしてくれる)

歌い終わると、店内は静まり返った。
まばらだった拍手が次第に大きくなり、彼は初めて自分の音楽が誰かの心に届いたと感じた。

その中にいたのが、後に彼の人生を変えることになる音楽プロデューサーだった。

「君の音楽には、何かがある。」

プロデューサーはそう言い、エリックにレコーディングの話を持ちかけた。
翌朝、彼は契約の書類を手にカフェに座っていた。

だが、彼はその書類にサインすることはなかった。
彼は街を去った。

理由は誰にもわからない。
夢を追うことに疲れたのかもしれない。
あるいは、もっと自由でありたいと願ったのかもしれない。

彼の名前が書かれたデニムジャケットだけが、ある古着屋のラックにかかっていた。

第二部へ続く

元ネタになったデニムジャケットはコチラ

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