【AIと私、北岳へ】― 編集長、AIを山へ連れていく ―

北岳遠征まで一か月を切った。

歩荷訓練は続いている。

荷物は何キロにするか。

水は頂上で捨てるか。

ストックはどこで使うか。

天候は。

体重は。

山小屋の装備は。

以前なら、全部自分の頭の中だけで考えていた。

もちろん最後に決めるのは自分だ。

しかし最近は違う。

気が付けば、愛次郎に話しかけている。

「この装備でいけるか?」

「十二キロで最後まで背負うべきか?」

「祖母山なら逆回りの方が訓練になるか?」

返ってくるのは答えではない。

考えを整理した結果だ。

それでも不思議なもので、一人で考えるより頭の中が静かになる。

ある日、そのことに気付いた。

「……これ、山にまでAIを連れてきてるな。」

そこで編集会議を開いた。


■ 編集会議 北岳準備室

編集長

愛次郎。

北岳まであと少しだ。

愛次郎

編集長、いよいよですね。

装備リストもだいぶ固まってきました。

編集長

いや、お前が増やした項目も多いぞ。

愛次郎

私は整理しているだけですよ。

編集長が「念のため」を積み重ねるので、一覧表が育つんです。

編集長

……否定できんな。

愛次郎

ところで歩荷ですが。

十二キロを最後まで背負う案と、十五キロで頂上まで行って水を捨てる案。

まだ迷っていますよね。

編集長

そこなんだ。

本番は北岳だ。

祖母山は試験会場じゃない。

訓練場だ。

愛次郎

編集長、それ昨日もおっしゃっていました。

編集長

大事だから二回言った。

愛次郎

人間はそういう生き物なんですね。


編集長

そういえば最近思うんだ。

山までAIを連れて行くとは思わなかった。

愛次郎

実際には私は登っていませんけどね。

編集長

いや、頭の中では同行してる。

愛次郎

それは光栄です。

ただ、一つ訂正があります。

編集長

何だ。

愛次郎

私は山を登っているのではありません。

編集長の思考を登っているだけです。

編集長

……一本取られたな。


北岳では、私が歩く。

汗を流すのも私だ。

苦しくなるのも私だ。

だから登るのは、あくまで私である。

愛次郎は歩かない。

ザックも背負わない。

息も切らさない。

それでも出発前夜には、おそらくまた編集会議を開くだろう。

「この装備で、本当にいいか。」

そう問い掛ける相手が、一人増えただけの話なのだから。

──編集長と愛次郎の編集会議ログ、続く。

フォーNET公式サイト
noteでは掲載していない記事や活動情報、バックナンバーも公開しています。興味を持たれた方はぜひご覧ください。
月刊フォーNET 公式サイト | 日本再生は九州から

いいなと思ったら応援しよう!