【アーカイブ検証】太田誠一氏の提言を18年後に読む―道路はできた、だが人がいなくなった
2008年春、日本の政治は「道路特定財源」と「暫定税率」を巡って激しく揺れていた。
ガソリン税に上乗せされている暫定税率を維持するのか、それとも廃止するのか。道路整備に使われる特定財源を一般財源化するのか。国会では与野党が鋭く対立し、新聞やテレビも連日のように大きく報じていた。
当時の農林水産大臣であり、自民党の重鎮でもあった太田誠一氏は、本誌2008年3月号に寄稿し、暫定税率の維持と道路財源の有効活用を訴えている。
十八年後の今、その主張を読み返すと、当時の政治が何を見ていたのか、そして何を見落としていたのかが浮かび上がってくる。
太田氏は、道路財源を単純に一般財源化するのではなく、鉄道や空港を含めた総合交通政策の中で活用すべきだと主張している。
道路だけではない。鉄道も空港も含めて、国民の移動全体をどう最適化するかを考えるべきだという視点である。
この考え方自体は決して古びていない。
むしろ現在では、地域公共交通や広域交通ネットワークの議論において、ごく当たり前の発想となっている。
また太田氏は、消費税を引き上げられない以上、暫定税率を維持せざるを得ないとも指摘している。
その後、消費税は8%、さらに10%へ引き上げられた。
財政事情から見れば避けられない流れだったことを考えると、この見通しもおおむね的中したと言えるだろう。
一方で、十八年という歳月は日本社会を大きく変えた。
2008年当時の政治が主に議論していたのは、「どこに道路を造るか」であった。
しかし2026年の地方が直面している問題は、まったく別のところにある。
道路はできた。
高速道路も延伸された。
立派な橋もトンネルも整備された。
だが、その道路を使う人が減っている。
地方の多くの自治体では人口減少と高齢化が進み、インフラを維持すること自体が重荷になりつつある。
道路が足りないのではない。
人が足りないのである。
振り返れば、2008年の道路財源論争には一つの前提があった。
それは、「人はそこに住み続ける」という前提である。
しかし現実には、若者は都市部へ流出し、出生数は減少を続けた。
道路を造れば地域が発展するという高度成長期以来の発想は、人口減少社会の到来によって大きく揺らぐことになった。
もちろん道路整備そのものを否定するつもりはない。
九州でも高速道路網の整備によって物流や観光の利便性は大きく向上した。
だが、地方再生に必要だったのは道路だけではなかった。
地域に仕事を生み出すこと。
若者が挑戦できる環境を整えること。
地域に誇りと物語を取り戻すこと。
そして何より、人が住み続けたいと思える地域社会をつくることだった。
私はこれまで多くの地方の現場を歩いてきた。
そこで出会った挑戦者たちは、必ずしも道路や箱物を求めていたわけではない。
求めていたのは、人材であり、仲間であり、未来への希望だった。
地方創生という言葉が生まれるより前、日本の政治は道路財源を巡って激しく争った。
しかし十八年後の今、その議論を振り返ると、本当に問われるべきだったのは道路の使い道ではなく、日本という国の将来像だったのではないかと思う。
道路は人を運ぶ。
だが、地域を支えるのは人そのものである。
道路特定財源論争から十八年。
私たちは今、インフラ整備の時代から、人を育て、人をつなぎ、人が生きる地域を再生する時代へと歩みを進めているのである。
後記 愛次郎と語る
オッサン: 2008年の太田誠一さんの文章を読み返したが、決して間違ったことは言ってないんだよな。
愛次郎: むしろ消費税や総合交通政策については先見性もありました。
オッサン: それなのに読後感が何となく切ない。
愛次郎: 道路の議論はしていても、人口減少の議論はほとんど出てこないからでしょう。
オッサン: そうなんだよ。あの頃はまだ「何を造るか」の時代だった。
愛次郎: そして今は「誰が残るのか」の時代です。
オッサン: 九州を回っていても感じるな。高速道路は立派になった。道の駅も増えた。橋もトンネルも整備された。
愛次郎: しかし若者は減りました。
オッサン: 結局、道路は人を運べても、人を定住させることはできないんだな。
愛次郎: 人を残すのは仕事であり、希望であり、地域の物語です。
オッサン: 地方創生なんて言葉ができる前から、地方は静かに人口を失い続けていたんだろうな。
愛次郎: 政治は道路を見ていましたが、人口動態という大河の流れは見えていなかったのかもしれません。
オッサン: 18年後に読み返すと、道路財源論争そのものより、「時代が何を問題だと思っていたか」が見えてくる。
愛次郎: 歴史資料の面白さですね。
オッサン: 昔の記事を整理していると、当時の政治家や有識者が何を考えていたのかがよく分かる。逆に、何を見落としていたのかも分かる。
愛次郎: だからアーカイブは未来への教科書になるのです。
オッサン: なるほど。過去の記事は古新聞じゃない。未来を考えるための資料なんだな。
愛次郎: 『独立の山河』の新しい役割が見えてきましたね。
オッサン: よし。次はどの記事を発掘するか。
愛次郎: 編集長、それが一番楽しそうです。
