ヨーロッパ珍道中④ マドリッド
モロッコの空港で搭乗したのは「ロイヤル・モロッコ航空」だった。
名前は立派だが、機体は小さい。
座席上の荷物入れを開けると、断熱材のようなものがはみ出していた。
大丈夫なのか、と一瞬不安になるような機内だった。
それでも飛行機は地中海を越え、スペイン・マドリッドの空港へ向かった。
マドリッド空港に到着すると、なぜか拍手が起きた。
「おいおい、そんなに危ないフライトだったのか」と思わず周りを見回した。
そのまま市内へ。
ここも記憶の中では石畳の街だった。
ヨーロッパに戻ってきたという感覚が、足裏から伝わってくるようだった。
バールに入り、軽く食事をとる。
今では日本でも見かけるが、生ハムをその場で切り分けて出してくれる。
それがやけにうまかった。
旅の緊張がほどけていくような味だった。
このとき初めてパエリアも食べた。
スペインの炊き込みご飯といったところか。
スペインは米を食べる文化があるので、日本人には合うのかもしれないと思った。
その後、日本に帰国してしばらくすると、パエリアは日本でも流行り始めていた。
翌日。
スペインと言えばやはり闘牛は見ておきたいということで、闘牛場へ向かった。
実際の細かい記憶は、今となってはかなり薄れている。
それでも、ひとつだけ鮮明に残っている場面がある。
それは牛の最期だった。
何というか、言葉にしづらいが、壮絶なシーンだった。
観客の熱気とは別に、目の前で起きていることの重さだけが、妙に切り離されて残っている。
ここで一行は、トレドとバルセロナの二手に分かれることになった。
私はトレドを選び、三人で小さな列車の旅に出た。
■愛次郎とのやり取り
愛次郎が飛行機の話を聞いて言う。
「断熱材が見えてる時点で、だいぶ怖いですね」
「飛ぶから大丈夫なんだろう」
「理屈が雑すぎます」
「でも着いた」
愛次郎は空港で拍手が起きた話に反応する。
「それ、生還扱いですね」
「やめろ」
生ハムの話をすると、愛次郎は少し笑った。
「そこが一番安心してますね」
「まあな」
