ヨーロッパ珍道中⑤ スペイン・トレド
ここで一行は、トレドとバルセロナの二手に分かれることになった。
私はトレドを選び、三人で小さな列車の旅に出た。
列車で向かったトレドは、城壁に囲まれた古都だった。
ヨーロッパ最後のイスラム教国だったとも記憶している。
石造りの街全体が、そのまま歴史の中に残っているような雰囲気だった。
城内を見学していると、ある女性に声をかけられた。
何かを尋ねられたので、拙い英語と筆談でやり取りをする。
彼女はブラジルから来たマリパという女性だった。
会話の流れの中で、「明日プラド美術館に一緒に行かないか」と言われる。
こんな場所に来てまでナンパする自分にあきれるが、どこかでうなずいてしまっていた。
彼女は宿泊先のホテルを教えてくれた。
夜、そのホテルに電話をかける。
しかし電話で英語を話すのは思った以上に難しい。
途中で母親らしき人が出たので、「明日、美術館で待っている」とだけ伝えた。
翌日。
プラド美術館の前で、かなりの時間待った。
しかし彼女が現れることはなかった。
それは今でも、少し心に残っている。
旅は続く。
次の目的地はいよいよ、花の都パリへ向かうことになった。
■愛次郎とのやり取り
愛次郎が少し笑いながら言う。
「それ、普通にすっぽかされてません?」
「そういう言い方するな」
「でも電話までしたのに来ないのは結構きついですね」
「旅ってのは、そういうこともある」
愛次郎は少し間を置いてから言う。
「でも、美術館前で待ってる時間は、ちょっと映画みたいですね」
「そういうふうに言うと、少し救われるな」
