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【理想と現実のあいだ⑩】「あの人がいれば大丈夫」が組織を壊す。イベント会計で気づいた"属人化"の怖さ

「49,990円」
会計資料を見た瞬間、私は手を止めました。

私たちの団体では、5万円以上の支出は世話人会の承認が必要です。
なぜ、この金額だったのでしょうか。

その疑問を追っていくと、一枚の請求書の裏に、組織が長年抱えてきた「属人化」という問題が見えてきた….

今回は、そんなお話です。


イベント会計で感じた違和感

数年前まで製薬企業で働いていた私は、現在、地元の16名で構成されるボランティア団体の代表を務めています。

企業とボランティア団体では文化も価値観も大きく違いますが、活動を続ける中で共通して感じることがあります。

それは、「属人化」は、ときに組織の成長を止めてしまうということです。

もちろん、属人化そのものが悪いわけではありません。
むしろ、優秀な人が長年培ってきた経験や人脈は組織にとって大きな財産ですし、そのような方がいることで組織が支えられてきたのも事実です。

ただ、その恩恵が大きいからこそ、見えなくなってしまう問題もあるのではないかと感じています。


先日、イベントの会計資料を確認していた時のことです。

毎年開催しているイベントなので、チラシ制作や印刷、懇親会会場など、多くの項目は毎年ほぼ同じ業者へ依頼されていました。

それ自体は特段珍しいことではありません。
実績があり、安心して任せられる業者に依頼することは合理的ですし、企業時代の私も同じように考えていました。

ところが一つだけ気になる項目がありました。
それがチラシの印刷代金です。

請求額は49,990円

私たちの団体では、5万円以上の支出は世話人会の承認が必要です
つまり、この金額は承認を受けなくてもよいギリギリの金額でした。

もちろん、偶然だったのかもしれません。
しかし私は、「なぜ49,990円なのだろう」と疑問に思いました。

業者がこちらのルールを知っているのだとすれば、その情報はどこから伝わったのでしょうか。
仮にそうではないとしても、同じ質のチラシをWEBで印刷すれば4分の1で済むのに、なぜこの金額になったのか。

その経緯を知りたくなったのです。


「なぜその業者なのか」を誰も知らない

さらに調べてみると、もっと驚いたことがありました。
その業者が選ばれた理由を知っている人が、誰もいなかったのです。

「昔からお願いしている。」
「毎年そうしている。」

返ってくるのはそんな答えばかりで、さらには、その業者名さえ知らない人が大半でした。

調べていくうちに、過去には非常に経験豊富なベテラン会員がいて、多くのイベントを一人で取り仕切っていたことも分かりました。

その方に任せておけば何事もスムーズに進み、誰も困らない。
実際、それで組織はうまく回っていたのだと思います。

ちなみに、情報が漏れていたという証拠は見当たらず、そう疑われても仕方のない仕組み=属人化が問題だったと理解しています。


任せることは悪いことではない

私は、そのベテラン会員を否定したいわけではありません。

むしろ、その方のおかげで長年活動が続いてきたことは間違いありませんし、経験や人脈、判断力のある方が組織にいることは心強いことです。

企業時代を振り返ると、私自身も周囲からそう見られていた部分があったかもしれません。

ですから、「属人化は悪だ」と言いたいわけではありません。

ただ、その人がいることを前提に組織が動き始めると、少しずつ皆が自分で考えなくなってしまいます。

「今までどおりでいい。」
「去年もこうだった。」
「自分がやるのは面倒だ。」

言葉を口にしなくても、そんな空気は少しずつ組織に広がっていきます。
そして、既存のやり方を見直そうという発想も生まれにくくなります。

その結果、組織は安定する一方で、新しいことに挑戦しなくなり、少しずつ発展する力を失ってしまうのではないでしょうか。


人が辞めた瞬間に止まる組織

もっと大きな問題があります。
その人が辞めたら、どうなるのでしょうか。

業者との関係、過去の経緯、判断基準、ノウハウなど、多くのことがその人の頭の中にしかありません。
そうなると、新しい担当者はゼロから始めなければならなくなります。

私は、属人化とは、その人がいる間は万事うまくいく一方で、その人がいなくなった瞬間に組織が止まってしまう、そんな表裏一体の状態なのではないかと思っています。


この1年で進めてきたこと

代表になってから、この1年間で少しずつ取り組んできたことがあります。

その一つが役割分担です。

担当者を明確にし、誰がどこまで権限を持つのかを整理する。
そして、業者の選定プロセスなども見える化するようにしています。

もう一つは、担当のローテーションです。

イベントごとに役割を変え、慣れてきた人には指導役をお願いする。
時には担当を大きく入れ替えることもあります。

もちろん、最初は効率が落ちますし、慣れた人が担当した方が早い場面も少なくありません。

それでも、長い目で見れば、その経験は必ず組織の財産になります。
一人でも多くの人が経験を積むことが、結果として組織全体の力につながると考えています。


私の中にある、もう一つの不安

代表2期目に入り、私にはもう一つ不安があります。

それは、「私が代表を辞めた時に、代わりを務められる人はいるだろうか」ということです。

代表になってからは、これまでにはなかったイベントや意思疎通の仕組みづくり、Webの活用、外部組織との連携など、新しい取り組みを数多く進めてきました。

その中で少しずつ役割分担やローテーションを進めていますが、全体を俯瞰し最終的に判断しているのは、やはり私自身です。

私が何でも判断し、何でも知っている状態は、私にとっては都合がよい反面、気が付けば私自身が属人化の原因になってしまうのではないかという不安もあります。

だからこそ、「自分がいなくても回る組織」をつくらなければならないと考えています。

そのためには、やはり役割分担し権限移譲するしかありません。

一人ひとりが役割に責任を持ち、自分の頭で考え、挑戦し、改善する。
その積み重ねが、組織を少しずつ強くしていくのだと思います。


最後に

企業でも、地域団体でも、PTAでも、自治会でも、同じことが言えるのではないでしょうか。

「あの人がいれば大丈夫」という組織は、裏を返せば「あの人がいなくなったら止まる」組織でもあります。

私は、本当に強い組織とは、誰か一人の能力に依存する組織ではなく、一人ひとりが自ら考え、役割と責任を担い、お互いに補い合える組織なのだと思っています。

属人化に頼る組織ではなく、それぞれの力が結集し、一人が抜けても自然に回り続ける組織。

それこそが、長く活動を続け、少しずつでも発展していける組織である。
私はそう感じています。

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