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崎陽軒のシウマイ弁当、どの順番で食べる? | 食べ方学会会長・市島晃生さん【偏愛マニア#21】

「好き」で続けてきたことが、どのように仕事につながってきたのか。
「偏愛」から活動を広げてきた方々のお話を伺いながら紐解いていく、「村田あやこの偏愛マニア探訪記」。

今回ご登場いただくのは、テレビディレクターであり、「食べ方学会」会長の市島晃生さんです。

神奈川県民にとってはおなじみ・崎陽軒のシウマイ弁当をどの順番で食べるのか。
シウマイ弁当の「食べ方」をあらゆる方向から語り尽くす「食べ方図説」シリーズは、コミケや各地の書店、メディアで注目を集めています。

「食べ方」に注目する楽しさとは。テレビではなく同人誌だからこそ実現できることとは。
市島さんに、お話を伺いました。

市島晃生(いちじま・てるお)さん
「食べ方」に特化した同人誌・ZINEサークル「食べ方学会」会長。
2017年夏コミケで初頒布した「食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編」がプチブレイクする。
それ以降「食べ方図説 カツカレー編」「崎陽軒シウマイ弁当 ゲノム解読完全データ」「食べ方図説 日本のご飯(6ヶ国語)」など制作した本は16冊。
神奈川県大和市出身。本業はテレビのディレクター。
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テレビの仕事で「食べ方」を叩き込まれた

テレビの現場で働く20代の頃の市島さん

――市島さんは現在、TVディレクターとして活躍されています。「料理の鉄人」や「カノッサの屈辱」をはじめ、数々の有名番組に関わられてきたんですね!

大学卒業以来、ずっとテレビの仕事をしています。大学では映画サークルに入っていたこともあり、もともと映像の仕事に興味があったんです。ただ、映画業界への就職活動はなかなかうまくいかなくて。当時勢いのあったテレビに興味が出て、制作会社を受けたところ、日本テレワークに受かったのが始まりです。

――食に関わる企画は多く手掛けてこられたんですか。

会社が食べ物の企画に強かったこともあり、「料理の鉄人」にディレクターとして関わったのをきっかけに、料理番組の仕事が増えました。

撮影現場にて、出演者やスタッフの好みに対応できるよう多種多様なロケ弁が勢揃い

――一気に「食べ物企画といえば市島さん」になったんですね。2012年に刊行された『絶対にうまい食べ方』では、仕事仲間である著者・稲村美紀さんの目線で、市島さん流「食べ方」論が紹介されています。スタッフ用に準備するお菓子の選び方ひとつとっても徹底してこだわったというエピソードも。そもそも「食べ方」に注目するようになったきっかけは?

テレビ業界は、食にとてもうるさいんです。弁当の頼み方や焼肉の焼き方、さらにはお茶の出し方で怒られることがしょっちゅうでした。
崎陽軒のシウマイ弁当を例に出すと、タレントさん一人だけ高級なお赤飯シウマイ弁当にしてしまうと、「自分だけ特別にしてもらうなんて申し訳ない」とかえって気を遣わせてしまうかもしれません。そこで、あえてダミーとして2個用意しておく。また、オーソドックスなシウマイ弁当を基本にしつつ、前日も撮影で同じ弁当を食べた人がいる可能性も考え、炒飯弁当も少しだけ用意しておく。
こういうふうに、ひとくちにロケ弁と言っても繊細な配慮が必要なんです。

――一つ采配を間違えれば、大目玉を食らう可能性も。「食べ方」について真剣に考え抜いた経験が、「食べ方学会」の下地にもなっているんですね……!

テレビでやれないなら、同人誌にしてしまおう

――食べ方学会を始めたきっかけは?

ある時、知り合いに教えてもらったニコニコ動画をきっかけに『涼宮ハルヒの憂鬱』というアニメにハマり、コミケに通うように。
いつか自分も同人誌をつくって出展者側になりたいと思っていたところ、「情報系同人誌」の存在を知りました。そこには、食べ物の同人誌をつくっている人もいたんです。食べ物がテーマだったら、自分でもできるかもしれないと希望が見えました。

撮影現場にて。崎陽軒シウマイ弁当発注の一例

――1冊目の同人誌『食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編』では、崎陽軒のシウマイ弁当の食べ方を取り上げています。

神奈川出身なので、崎陽軒のシウマイ弁当は子どもの頃からおなじみのソウルフードでした。「どこから食べる?」という話題は、子どもの頃から身近だったんです。シウマイ弁当の食べ方を語る著名人もいて、文化として存在していると感じていました。
ところが、テレビ番組で何度か企画を出したものの、なかなか通りませんでした。「ならば同人誌でやってしまおう」と思ったんです。
本もまだない段階で、シウマイ弁当に“食べ方順”を表す番号を振った画像で、コミケに申し込んだところ、なんと当選。「やばい!」と慌てました(笑)。

――初めての同人誌。制作はどのように進めたのでしょうか?

本づくりに詳しい人はいないか周りに尋ねたところ、縁あって何人かの知り合いが手伝ってくれることになりました。
本の設計図である「台割」さえ知らない状態からスタートしましたが、編集やデザインの経験がある人たちに教えてもらいながら、なんとか1冊目をつくりました。

1冊目の同人誌『食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編』

――久住昌之さんや小山薫堂さんをはじめとする豪華ゲストの方々も登場されています。

久住さんはすき焼きの食べ方に関する『かっこいいスキヤキ』という漫画をつくった方。薫堂さんはラジオ番組でシウマイ弁当の食べ方を語っていました。お二人とも仕事をご一緒したことがあったので、ご連絡して協力していただきました。

――お仕事のこ゚縁が存分に活かされているのですね。

テレビの仕事は、人脈をたどって取材申請をする……みたいなことが、ある意味で仕事の中心とも言えます。また仕事柄、企画書を書いて出すこともあまり苦じゃないんです。その強みを活かせば、特色ある同人誌にできると思ったんです。
お忙しい薫堂さんの取材は、ラジオ局から空港まで移動する車に一緒に乗り込んで、車内でシウマイ弁当を食べる順番について取材しました(笑)。

――本丸である崎陽軒の社長も登場されていますね。

本の締めくくりとして、ぜひ崎陽軒の社長に食べる順番をお聞きしたいと思ってお声がけしました。「食べ方という視点の本はなかった」と面白がって協力していただけましたね。
社長が登場したことで「ちゃんとした本」だと思ってもらえて、その後の取材が楽になりました。

コンテンツの受け手のリアルな反応が分かる

コミケ出店中の様子。食べ方学会のブースの前には長蛇の列

――同人誌とテレビ番組。どんなふうに気持ちを切り替えてつくっているんでしょうか。

他の業界も同じだと思いますが、テレビでは仕事を進めるにあたって、クライアントの意向を汲まなければいけない場面が少なくありません。
一方で同人誌は、そもそもが利潤を目的にはしていないものです。自分が楽しく自由につくることを大事にしたいので、ビジネスとは一線を引くようにしています。
崎陽軒の方々と仲良くさせていただいていますが、あくまで一人のファンという立場。先方からお金をいただいているわけではありません。
ビジネスになってしまうと、これだけ自由にできないですからね。

――同人誌だからこそ楽しめることがあるのですね。同人誌作家としての活動が、本業や新たな活動に波及したことはありますか?

同人誌を出してからは、「出る側」として取材していただく機会はすごく増えましたね。番組や雑誌に呼んでいただき、食べ方について話したり、同人誌を紹介していただいたり。J-WAVEで、「OTOMESHI」といって、料理の音に着目するラジオ番組のナビゲーターを務めたこともありました。
またForbesのWebメディアでは、モスバーガーや鳥貴族といった大手飲食チェーンの社長に、自社の食べ物の食べ方を聞く企画を担当しました。いずれも同人誌を見て声をかけていただいたものです。

これまで食べ方学会が刊行した同人誌一覧。
食べ方からスプーン曲げまで、気になるテーマがずらり

――「出る側」にもなったことで新たな発見はありましたか?

シウマイ弁当の食べ方は、番組の企画としてはなかなか通りませんでした。それは、そもそも「シウマイ弁当の食べ方」とは何なのかが伝わっていなかったためかもしれない。そう気づきました。
また即売会で同人誌を頒布していると、ピタッと足が止まる人と素通りする人で完全に分かれます。素通りした人にはいくら説明しても面白さが伝わらないけれど、足を止めた人はものすごく食いついてくれます。そういうニッチなコンテンツだということも徐々に分かってきました。また自分はそういうニッチなものが好きなんだということにも気づきました。
テレビで企画書を出したときは、おそらくプロデューサーが素通りするタイプだったから、通らなかったんでしょうね。

――コンテンツの最終的な受け手との距離も、テレビと同人誌とでは違いそうですね。

テレビの場合、例えば「視聴率◯%」と言われても、実際にはどんな人が見てくれたのか、なかなか実感は湧きません。過去には、絶対に面白いと自信満々でつくったテレビ番組の視聴率がふるわず、その理由がいまいち分からなかったことがありました。

一方で同人誌の場合は、実際に目の前にいる人に説明して喜んでくれたり手に取ってもらえたりするのが、すごく嬉しいですね。
これまで16冊の同人誌をつくってきましたが、人気があるものもあれば、そうではないものもあります。お客さんの反応を直接見るうちに、「響くもの」「響かないもの」の差の理由がなんとなく分かるようになってきました。

――同人誌活動は、コンテンツの受け手のリアルな反応を目の前で見られる機会になっているんですね。

プロの力を結集し、くだらないことを全力で楽しむ

――お忙しい本業と並行して、年2回のコミケに合わせて新刊を出されています。AIにシウマイ弁当の食べ方を聞いたり、ゲノム解読でおかずの食べ合わせを判定したりと、斬新な企画が楽しいです。企画はどうやって生まれるんでしょうか?

毎回悩みながら、企画が降りてくるのを待っています。
ゲノム解読の企画は、同人誌作家としてテレビ出演した際に、慶応義塾大学で味覚研究をしている鈴木隆一先生とご一緒したのがきっかけです。鈴木先生は「味覚センサーレオ」といって、食品の相性の良し悪しを数値化できる機械を開発された方。
休憩時間にふと、「シウマイ弁当でも、おかず同士の食べ合わせを数値化できるんですか?」と尋ねたところ、「できますよ」と。それをきっかけにご協力をお願いしました。
鈴木先生は普段、大手食品企業の研究を請け負っていて、本来は同人誌に協力を依頼できるような方ではありません。たまたま横浜出身でシウマイ弁当に馴染みがあったこともあり、快諾していただき、楽しんで取り組んでくださいました。もちろん研究費はきちんとお支払いしています。

味覚センサーを使っておかず同士の食べ合わせを数値化した
『食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当 ゲノム解読完全データ』。
崎陽軒4代目新社長も登場!

――プロの力を結集して、「食べ方」を全力で楽しみ尽くしているのが最高です!

一流の方々に、いかにくだらないことを本気でやってもらうかを大切にしています。これまでの仕事で培った経験や人脈も活かせていますし、同人誌は企画書を通す必要がないのも大きいですね。

――今後やってみたいテーマはありますか?

天丼や信玄餅のように、人によって食べ方が分かれるものには興味があります。新宿中村屋のカリーも薬味の使い方に個性がでるので、好きな人は語りたがるんです。
また去年、定食や牛丼といった日本のご飯の食べ方を6ヶ国語で紹介する本を出しました。最近、日本に外国人観光客の方が増えていますが、海外の方が定食を食べている様子をお店でこっそり観察してみると、ご飯とおかずのバランスが崩れていることが多いんです。
また海外の方の間で富士そばの天丼とざるそばのセットが流行っていますが、天ぷらだけ食べてご飯が残ってしまうこともあるみたいです。おそらく、定食スタイルに馴染みがないからというのは、大きな理由だと思います。
日本人は、おかずとご飯のバランスを考えながら、同じタイミングで食べ終わるように計算する習慣が染み付いていますよね。「食べ方」も含めて、日本の食文化だと思っています。

おかずとご飯のバランスを取りながらぴったり同じタイミングで食べ終わる。
日本食の食べ方を6ヶ国語で解説した『食べ方図説 日本のご飯』

――確かに小さい頃から「三角食べ」を叩き込まれてきましたもんね。

即売会でも海外の方がいたら「食べ方」について一生懸命説明するものの、十分に伝わらないこともあります。それでも可能性を感じています。
ご飯とおかずをバランスよく食べることで、より美味しくなる。日本の食の魅力を、海外の方にも伝えていきたいですね。

――海を超えたご活動の広がりが楽しみです!

偏愛マニア探訪後記

市島さんとは、以前とあるイベントの出展者同士でご一緒しました。ブースでお話を伺うやいなや、市島さんが語る「食べ方」の世界にすっかり魅了され、思わず同人誌を手に取ったのでした。

食べ方学会さんの同人誌には、隅々まで市島さんの「食べ方」にかける熱量が詰まっていています。
「食べ方」を語るゲストの方々の楽しそうな表情も印象的。食べ方にはその人ならではの創意工夫が現れます。同じ人でも、次の日にはまた違った食べ方をしているかもしれません。
食べ方に、正解はない! だからこそ、誰かの食べ方を知ったり、食べ方について語らったりするのが楽しいのだと思います。

普段、なにかを食べるときは具材や味そのものに意識を向けがちでしたが、「食べ方」にフォーカスすることで、こんなにも豊かな楽しみ方が広がるのか!と、視界が一気にひらける思いでした。

そして今回のインタビューを通して、その背景には、テレビの現場で培われた食に対する徹底的な配慮や観察があることも知りました。普段テレビを見て、「ロケ弁やケータリングって美味しそうだな〜」と一視聴者として楽しんでいましたが、その背後には現場スタッフさんたちの繊細な采配があるのだと実感。

ご飯の時間そのものが楽しくなるようなお話、ありがとうございました!

※記事内の写真はすべて市島晃生さん提供

取材・文/村田あやこ
路上園芸鑑賞家・ライター。一人学会「路上園芸学会」を名乗り、街なかの軒先や隙間で威勢よくはみだす、誰かの園芸や植物を愛でる。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)、『緑をみる人』(雷鳥社)。いとうせいこう氏と『ボタニカルを愛でたい』(フジテレビ)に出演中。デザイナーの藤田泰実氏とお散歩ユニット「SABOTENS」として活動し、作品展示やグッズ制作などを行う。
instagram/@botaworks


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