アプリがくれた恋|第5話春風の中で、恋が暮らしに変わっていく
それから何度も、
週末のたびに会った。
コーヒーを飲んで、
駅まで並んで歩いて、
小さな偶然を笑い合った。
「今日も楽しかったですね。」
「うん。なんか、
時間が早く感じますね。」
帰り道、
夕暮れの風がまだ少し冷たかった。
でも、彼の隣を歩くと、
不思議と寒くなかった。
季節が少しずつ変わっていった。
街の木々が薄い緑をまとい、
日差しの角度がやわらかくなる。
「そろそろ桜、
見に行きませんか?」
彼のメッセージに、
胸の奥がぽっと温かくなった。
その週末、
二人は川沿いの公園へ行った。
満開の桜の下、
シートを敷いて、
コンビニで買ったコーヒーを
手にする。
「こういうの、久しぶりです。」
「僕も。
なんか学生に
戻ったみたいですね。」
桜の花びらが、
彼の肩にふわりと落ちた。
指でそれを払おうとして、
一瞬だけ、指先が触れた。
その瞬間、
世界の音が少し
遠のいた気がした。
彼の横顔が、
淡い光の中でやさしく見えた。
花が散る頃、
会う頻度が増えていった。
映画を観て、
駅前でご飯を食べて、
「おやすみ」の
言葉で一日が終わる。
いつからか、
彼の部屋に置きっぱなしの
マグカップや、
私の傘が当たり前になっていった。
ある日、
洗濯物を干す彼の背中を
見ながら、思った。
──この人といる時間が、
いちばん静かで心地いい。
夜、カーテンの隙間から
街の灯りがやわらかく入ってくる。
彼がコーヒーを淹れる音、
カップを置く小さな音。
そんな音が、
まるで生活のBGMみたいに
感じられた。
「ねえ。」
「ん?」
「次の休み、うちに来ます?」
唐突な言葉に、
一瞬だけ息が止まった。
「え?」
「別に急がなくていいですけど。
…一緒にいたいなと思って。」
その声は、
不器用なくらいまっすぐだった。
静かな間のあと、
私は笑って頷いた。
「…うん。行く。」
その夜、
帰り道の風がやけに優しかった。
春の匂いの中で、
これまでの季節が全部、
やさしく溶けていく気がした。
恋は、
燃えるように
始まるものだと思っていた。
けれど、
本当はこうして、
日常の中で静かに
根を張るものなのかもしれない。
💫次回予告
第6話「同じ屋根の下で、恋が日常になった」
──ふたりの朝が、ひとつの生活になる。
恋が、暮らしへ。
そして、やさしい“永遠”へ。
読んでいただき、
ありがとうございます。
切なさも、痛みも、温もりも。
物語は、まだ続いています。
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「恋愛ノンフィクション作家」として、救いのない愛や家族の影を描いています。
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