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アプリがくれた恋|冬が来る前に、恋を知った【第3話】

朝の冷たい空気の中で、
スマホの通知が震えた。

「おはようございます。
今日は手が冷える朝ですね。」

その一文だけで、
空気の冷たさが
少しだけ柔らかくなる気がした。

秋がゆっくりと遠ざかって、
街の色も少しずつ薄くなっていく。
それでも彼の言葉だけは、
不思議と温度を持って届いていた。

ここ数日、
朝の“おはよう”と夜の“おやすみ”が
完全に日常の一部になっていた。
彼のメッセージが届かない日は、
一日のリズムが
どこか欠けて感じるように
なっていた。

「もう完全にハマってるな」
心の中でそうつぶやいて、
自分でも小さく笑ってしまう。

その夜。
彼から届いたメッセージに、
一瞬、呼吸が止まった。

「週末、もし予定なかったら…
コーヒーでもどうですか?」

画面の光が
少しだけ強く感じた。
手の中のスマホが、
心臓の鼓動と同じ速さで震えている。

まさか、と思った。
けれど、“会う”という
言葉を見た瞬間、
胸の奥が甘く鳴った。

どうしよう。
何を着て行けばいいんだろう。
鏡に映る自分の顔を見ながら、
少し笑って、少し戸惑う。

髪の長さ、
コートの色、
唇の乾き。
どれも、久しぶりに気になった。

「頑張らなくていいですよ。
ペースはあなたに合わせますから。」
彼が前に言ってくれた言葉が、
心の奥で静かに響いた。

そうだ、
頑張らないで会えばいい。
飾らず、作らず、
あの日みたいに笑えばいい。

外では、
風が少し冷たくなっていた。
街灯の光に照らされた落ち葉が、
小さく舞っている。

スマホを見つめて、
ゆっくりと指を動かす。

「はい。
コーヒー、楽しみにしてます。」

送信ボタンを押したあと、
しばらく動けなかった。
胸の奥で、
小さな灯りがともった気がした。

数分後、
彼からの通知が届く。

『嬉しいです。
寒いので、温かいコーヒーに
しましょうね。』

その言葉だけで、
心の中に湯気が立った気がした。

寝る前に、
マグカップのコーヒーを淹れた。
湯気の向こうに、
彼の笑顔を想像してしまう。

「まだ会ってないのにね」
自分にそう言い聞かせながら、
頬が少し熱くなる。

窓の外、
風の音が少しだけ強くなった。
けれど不思議と、
寒くなかった。

彼と話すたびに、
心の温度が一度ずつ上がっていく。
それが
恋というものなのかもしれない。

スマホを伏せると、
テーブルの上に
ふたり分のマグカップが
並んでいるように見えた。

週末、
彼に会える。
ただそのことだけで、
眠れない夜が、
少しだけやさしくなった。

「恋って、
通知みたいに突然だね。」

そうつぶやきながら、
私は小さく笑った。

届いた一言で、
世界の明るさが
ほんの少し変わった気がした。



読んでいただき、
ありがとうございます。

切なさも、痛みも、温もりも。
物語は、まだ続いています。

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「恋愛ノンフィクション作家」として、救いのない愛や家族の影を描いています。
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